法律相談

月刊不動産2011年8月号掲載

悪質な勧誘電話

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

投資用マンションについての悪質な勧誘電話を受けて困っています。悪質な勧誘を繰り返す宅建業者について、宅建業法上どのような問題があるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.回答

     宅建業法上、①相手方等の利益の保護に欠ける行為の禁止、②威迫行為の禁止、③確定的判断の提供の禁止のそれぞれについて、宅建業法に違反する可能性があります。

    2.相手方等の利益の保護に欠ける行為の禁止

     宅建業者・その代理人・使用人その他の従業者(以下、「宅建業者等」という)は、契約の締結に関する行為又は申込みの撤回もしくは解除の妨げに関する行為であって、売買・交換・貸借の相手方、代理を依頼した者、媒介に係る売買・交換・貸借の各当事者(以下、「相手方等」という)の利益を害するものとして、規則で定められる行為が、宅建業法上、禁止行為とされています(宅建業法47条の2第3項(以下、単に条文をあげるときは、宅建業法の条文)。
    これを受けて、規則によって、契約の締結を不当に急がせる行為、電話による長時間の勧誘その他の私生活又は業務の平穏を害する方法によって相手方を困惑させる行為が禁止事項として定めされています(宅建業法施行規則16条の12第1号のロ・ハ)

     すなわち、まず、契約を勧誘するにあたっては、「今申し込まなければ損です」などのセールストークが用いられることがありますが、不当に契約締結を急がせる行為は、宅建業法違反です。

     また、一度断ったにもかかわらずしつこく電話をかけてきたり、長時間にわたって電話を切らせなかったり、あるいは深夜や早朝に電話をかけるなどの行為は、私生活又は業務の平穏を害する方法によって相手方を困惑させる行為に該当することになり、違法です。

     最近では、電子メールによる一方的な商業広告(迷惑メール)が社会問題となるに至っていますが、迷惑メールによる勧誘も、私生活または業務の平穏を害する方法によって相手方を困惑させる行為として、宅建業法による禁止の対象です。

    3.威迫行為の禁止

     次に、宅建業者等は、契約を締結させ、又は契約の申込みの撤回もしくは解除を妨げるため、相手方等を威迫してはなりません(47条の2第2項)。ここでいう威迫する行為は、脅迫とは異なり、相手方等に恐怖心を生じさせる程度のものであることは要しませんが、相手方等に対して言動挙動をもって気勢を示し、不安の念を生じさせる行為を指します。電話を受けた顧客に対して、恐怖心をあおって購入を求めるようなケースがここで禁止される行為にあたります。

    4.確定的判断の提供の禁止

     さらに、宅建業者等は、契約の締結の勧誘をするに際し、相手方等に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供してはなりません(47条の2第1項)。将来の値上がりが確実であるから将来の転売によって必ず一定の利益が生じるなどと告げて営業を行うことが、ここでいう確定的判断の提供に該当します。

     利益が生ずることが確実だというほか、契約の目的物である宅地又は建物の将来の環境又は交通その他の利便性について誤解させるべき断定的判断を提供することも違法です(宅建業法施行規則16条の12第1号のイ)。したがって、例えば、南側に3階建てより高い建物が建つ予定はない、徒歩5分以内の場所に数年以内に地下鉄の駅ができるなど、誤った情報を提供して勧誘する行為があれば、宅建業法違反となります。

    5.ペナルティー

     以上に掲げた、①相手方等の利益の保護に欠ける行為の禁止、②威迫行為の禁止、③確定的判断の提供の禁止については、宅建業者がこれらに違反すると、指示処分・業務停止処分の対象となり、情状が特に重いときは免許の取消処分を受けることもあります(65条1項・3項・2項2号・4項2号、66条1項9号)。

    6.まとめ

     最近、宅建業者から電話による執拗な勧誘を受けたなどの苦情・相談が増えています。これを受けて、勧誘時における宅建業法上の規制についても、従前のルールに加え、社名や営業目的の明示、深夜営業の禁止などが加わる見通しであると報道されています。宅建業者は、過度なセールストークによる紛争を引き起こしてはならないことはいうまでもありませんが、さらに、顧客から信頼されるよう積極的に意識しながら、業務を遂行することが求められます。

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