法律相談

月刊不動産2010年11月号掲載

建売住宅の値下げ販売

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

一団の建売住宅6棟のうち1棟を5,480万円で購入しましたが、購入のわずか2か月後、同じタイプの別の棟について4,980万円で売買契約が成立したという話を聞きました。建売業者に損害賠償を請求できるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1 建売業者がほかの棟を値下げして販売したとしても、原則として、建売業者に損害賠償を請求することはできません。

    2 ご質問のケースに類似する事案において、買主Xが、売主Yに、販売未了物件の販売価格に関し、信義則上の価格維持義務違反があるとして損害賠償請求をした裁判例があります(東京地裁平成21年11月26日判決)。裁判所は次のとおり判断し、請求を否定しました。

     『建売住宅の販売行為は、売主がその財産を処分する行為であり、その販売価格の設定は、本来、売主が自由に行い得るものである。本件物件群のように市場性のある建売住宅について、売主が、その売行き、市況の変化、売れ残りが生じて事業資金の返済が遅れることにより発生する金利負担その他の採算等を考慮して、販売価格を当初のそれより値下げして販売することも、売主が経済的な必要性に基づいて行う合理的な財産の処分行為であり、原則として、売主が自由に行うことのできるものというべきである。不動産業者が同種同等の建売住宅を一斉に販売する場合であっても、そのことから直ちに、売主に、これを同等の価格で販売し続けなければならない義務が買主との関係で生じると解することはできない。

     Xは、本件物件群のような建売住宅の購入者が、売買の目的物と同種同等の物件につき今後も購入価格と同一の価格が維持されて販売されるとの期待を抱き、売主たる不動産業者が、購入者の上記期待を認識し又は容易に認識し得た場合には、当該不動産業者は、同種同等の物件の販売を行うに当たり、可能な限り上記購入価格と同一の価格を維持すべき信義則上の義務を購入者に対して負うと主張するが、売買の目的物が本件物件群のような同種同等の建売住宅であることや、売主が不動産業者であるという理由だけで、売主が買主に対し上記のような信義則上の価格維持義務を負うと解することはできない。』

    3 判決はこれに続けて、例外的に売主に損害賠償責任が生ずる場合があることにも言及しています(ただし、本件は例外には該当しないとの判断です)。

     『もっとも、本件物件群のような同種同等の建売住宅の一斉販売において、①引下げ後の価格が市況の相場に照らし、著しく低廉なものであり、これによって先に販売された同種同等の建売住宅の資産価値が市況の相場よりも大きく引き下げられたと認められる場合や、②売買の目的物と同種同等の物件が今後も売買代金額と同等の価格で販売され続けるであろうとの期待を買主が抱いても無理はないといえるような言動が、売買交渉の過程で売主側に存在したと認められる場合等のように、特段の事情が認められる場合には、売主の販売価格引下げ行為が信義則に違反する行為として買主に対する不法行為を構成すると解する余地がある。

     そこで、本件について上記①の事情が認められるかについてみるに、本件販売未了物件群の引下げ後の販売価格が、引下げ時点における不動産市況の相場より著しく低廉なものであったことについては何ら主張立証がない。

     また、上記②の事情についても、YやB社(仲介業者)の担当者が、本件土地建物の売買交渉の際、Xに対し、今後、本件販売未了物件群について値下げをする予定はない旨を述べた等の事実は、本件全証拠をもってしても認められず、かえって、本件売買契約締結の際、B社がXに交付した重要事項説明書の特記事項欄には、「本分譲地において、本契約締結後、市場動向等により売主の判断で販売形態及び価格等が変更になる場合があります。」との記載があったことが認められる。

     なお、B社は、本件土地建物の購入の勧誘の際、Xに対し、Yの厚意により販売価格を5,680万円から5,480万円に値引きする旨の申出をしているが、上記申出の事実は、むしろ、売主であるYが、本件物件群の売買価格について柔軟な態度で売買交渉に臨んでおり、販売価格にはそれほど固執していないことをうかがわせる事実、ひいては値下げの可能性を示唆する事実ともみることができるものである。

     そして、他に、YないしB社が、売買交渉の過程において、Xが本件販売未了物件群が今後も本件土地建物の販売価格(5,680万円)ないし売買価格(5,480万円)で販売され続けるであろうとの期待を抱かせるような言動をしたことを認めるに足りる証拠はないから、Yの信義則上の価格維持義務違反をいうXの主張は、採用することができない。』

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