法律相談

月刊不動産2006年4月号掲載

広告料金の請求

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

宅地建物取引業者は依頼者に対し広告料金を請求できると聞きましたが、物件を指定流通機構に情報登録する費用を広告料金として媒介報酬と別に依頼者に請求することが認められるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 物件を指定流通機構に情報登録する際の費用について、媒介報酬とは別に広告料金として依頼者に請求することは、宅地建物取引業法の報酬規制に反することになりますので、認められません。
     さて業者が契約成立に向けて尽力奔走して売買等の契約を成立させたときには、約定があれば、約定の媒介報酬を請求できることは当然です。しかし報酬についてはどのような約定でも定められるわけではありません。
     報酬の額について不当な金額とする約定は、トラブルの原因となり、業者の信用を害することにもなります。そのため宅地建物取引業法では、国土交通大臣が媒介報酬のルールを定めるものとされ、業者が定められた額を超えて報酬を受けることは禁止されています(46条1項、2項)。この条項を受け、昭和45年10月23日建設省告示第1552号(報酬告示)の第2から第6に、業者が受けるべき報酬額のルールが定められています。売買について一方当事者から受け取ることのできる報酬額(消費税込み)の上限についてのルールの概要は次のとおりです。

    取引額 200万円までの部分 5.25%
    取引額 200万円を超えて400万円までの部分 4.2%
    取引額 400万円を超える部分 3.15%

     業者は、事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、報酬告示を掲示しなければなりません(46条4項)。

     ところで報酬告示第7第1項には、「宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買……の……媒介に関し、第2から第6までの規定によるほか、報酬を受けることができない。ただし依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、この限りでない」と規定されています。そこで媒介のための広告活動に係る費用が、報酬告示第7第1項ただし書にいう依頼者の依頼によって行う広告の料金として、報酬告示によって規制を受ける報酬の範囲外となるのかどうかが問題になります。
     しかし媒介業務は取引の相手方の探索を含むものであり、広告活動は当然に媒介業務の内容となります。よって一般に業者が売買等の媒介業務を行うにあたって通常必要とされる程度の広告宣伝費用は、営業経費として、報酬告示によって規制を受ける報酬によって賄うべきものと解されています。指定流通機構への情報登録など、通常の広告のための費用は、報酬告示第7第1項ただし書にいう依頼者の依頼によって行う広告の料金にあたらず、これらを報酬とは別に依頼者に請求することはできません。これらの広告費用は、当然に業者の負担となります。

     裁判所も、「一般に宅建業者が土地建物の売買の媒介にあたって通常必要とされる程度の広告宣伝費用は、営業経費として報酬の範囲に含まれているものと解されるから、報酬告示第7が特に容認する広告の料金とは、大手新聞への広告掲載料等報酬の範囲内で賄うことが相当でない多額の費用を要する特別の広告の料金を意味するものと解すべきであり、また、報酬告示第7が依頼者の依頼によって行う場合にだけ広告の料金に相当する額の金員の受領を許したのは、宅建業者が依頼者の依頼を受けないのに一方的に多額の費用を要する広告宣伝を行い、その費用の負担を依頼者に強要することを防止しようとしたものと解されるから、特に依頼者から広告を行うことの依頼があり、その費用の負担につき事前に依頼者の承諾があった場合又はこれと同視することのできるような事後において依頼者が広告を行ったこと及びその費用の負担につき全く異議なくこれを承諾した場合に限り、広告の料金に相当する額の金員を受領することができるものと解すべきである」としています(東京高裁昭和57年9月28日判決、判例タイムズ485号108頁)。
     報酬告示の定めは、業者が当然に請求できる額を決めたものではなく、業者が受領できる報酬の上限を定めた規定であることにも、注意が必要です。

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