税務相談
月刊不動産2015年9月号掲載
平成27年度改正・特定の事業用資産の買換え特例(所得税)の見直し
情報企画室室長 税理士 山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング)
Q
平成27年度税制改正で見直された、不動産の譲渡にかかる所得税の特定の事業用資産の買換え特例について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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「10年超所有の土地等、建物等から国内にある土地等、建物等への買換え」(いわゆる9号買換え)について、課税の繰延割合(後述)の見直し等がされたうえで、適用期限が平成29年3月31日まで延長されました。
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所得税における特定の事業用資産の買換え特例
(1)概要
国の土地政策や産業政策、環境政策に合致する特定の資産の譲渡・買換えについて、設備更新等を支援するため、個人が特定の事業用の固定資産(譲渡資産)を譲渡し、一定期間内に特定の資産(買換資産)を取得して、取得の日から1年以内に事業の用に供する場合、一定の要件のもと、その譲渡益の原則80%に対する所得税の課税を将来に繰延べることができます。これが所得税における「特定の事業用資産の買換え特例」です(租税特別措置法第37条。なお、法人税についても、同第65条の7等において同様の規定が設けられています)。
(2)買換え特例の適用を受けた場合の譲渡所得の金額の計算
【(1)の特例の適用を受けた場合の譲渡所得の金額の計算方法】
①譲渡資産の譲渡価額が買換資産の取得価額以下の場合
【譲渡資産の譲渡価額×20%】を譲渡資産の譲渡に係る収入金額として、その収入金額に対応する譲渡所得の計算を行います。
②譲渡資産の譲渡価額が買換資産の取得価額を超える場合
【(譲渡資産の譲渡価額-買換資産の取得価額)+買換資産の取得価額×20%=譲渡資産の譲渡価額-買換資産の取得価額×80%】を譲渡資産の譲渡に係る収入金額として、この収入金額に対応する譲渡所得の計算を行います。
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10年超所有の土地等、建物等から国内にある土地等・建物等への買換え(いわゆる9号買換え)の平成27年度税制改正後の取扱い
(1)概要
特定の事業用資産の買換え特例は、全部で10類型あります。このうち適用要件が比較的緩やかであることから、事業用不動産の買換えの際に利用されることが多い買換え特例が「10年超所有の土地等、建物等から国内にある土地等、建物等への買換え」、いわゆる「9号買換え」です。9号買換えは、租税特別措置法第37条第1項第9号に規定されていることから、「9号買換え」と一般に呼ばれています。
9号買換えの適用を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。個人が、みずから所有する事業用の土地を譲渡し、別の事業用の土地に買換える場合においても同じ要件が求められます。
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【9号買換えの適用要件】
<買換資産>
原則として特定施設(事務所、工場、店舗、住宅等をいいます。)の敷地の用に供されている国内の土地等のうち、面積が300㎡以上のもの。
<譲渡資産>
10年超所有の国内の
事業用土地等
買替え⇒ (2)27年度改正による課税の繰延割合の見直し
さて、9号買換えは、平成27年度税制改正により、課税が繰延べられる額を計算する際に使用する割合(以下、「課税の繰延割合」)を次のとおりに見直す等がされました。
①譲渡資産が集中地域※以外の地域内にある資産に該当し、買換資産が東京23区内にある資産に該当する場合は、課税の繰延割合が、70%(改正前:80%)に引き下げられました。
②譲渡資産が集中地域※以外の地域内にある資産に該当し、買換資産が集中地域(東京23区を除きます。)内にある資産に該当する場合における課税の繰延割合が、75%(改正前:80%)に引き下げられました。
これらの見直しのうえで、9号買換えの適用期限は平成29年3月31日まで延長されています。なお、集中地域※とは、「地域再生法施行令の一部を改正する政令」にもとづき、次の地域とされています。
【※集中地域とは次の3法令に基づく区域を指す(「地域再生法施行令の一部を改正する政令案の概要」参照)】
・首都圏整備法(昭和31年法律第83号)第2条第3項に規定する既成市街地及び同条第4項に規定する近郊整備地帯
・近畿圏整備法(昭和38年法律第129号)第2条第3項に規定する既成都市区域
・首都圏、近畿圏及び中部圏の近郊整備地帯等の整備のための国の財政上の特別措置に関する法律施行令(昭和41年政令第318号)第1条に規定する区域
(3)添付書類の見直し
税制改正による上記(2)の見直しにより、譲渡資産または買換資産が集中地域※に所在するかどうかによって課税の繰延割合が異なることになります。このため、埼玉県熊谷市など、その市域の全部ではなく一部区域のみが集中地域※に該当する地方公共団体に所在する資産を譲渡または取得し、9号買換えの適用を受ける場合には、これら資産の所在地を管轄する市長の作成する「譲渡資産又は買換資産の所在地が集中地域内(又は集中地域以外の地域内)である旨を証する書類」を確定申告書に添付することが義務付けられました。
(4)適用時期
上記(2)および(3)の改正は、個人が地域再生法の一部を改正する法律(平成27年法律第49号)の施行の日以後に譲渡資産の譲渡をし、かつ、同日以後に買換資産の取得をする場合について適用されます。
本稿執筆時点(平成27年7月31日)では、地域再生法の一部を改正する法律は施行されていませんが、「同法の公布の日(平成27年6月26日)から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日」が施行の日とされていますので(「地域再生法施行令の一部を改正する政令案の概要」参照)、遅くとも平成27年9月26日までには上記(2)および(3)の改正が適用されることになります。
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【ポイント】
○所得税の「特定の事業用資産の買換え特例」とは、個人が特定の事業用の固定資産(譲渡資産)を譲渡し、一定期間内に特定の資産(買換資産)を取得して、取得の日から1年以内に事業の用に供する場合、一定の要件のもと、その譲渡益の原則80%に対する所得税の課税を将来に繰延べることができる特例です。
○特定の事業用資産の買換え特例のうち、「10年超所有の土地等、建物等から国内にある土地等、建物等への買換え(いわゆる9号買換え)」については、平成27年度税制改正により、譲渡資産又は買換資産が集中地域に所在するかどうかにより、課税の繰延割合が異なることになりました。したがって、9号買換えの適用を検討する場合には、譲渡資産および買換資産が集中地域に該当するかどうかの確認が重要になります。