税務相談
月刊不動産2010年11月号掲載
平成22年10月以降に法人が100%子法人へ土地を譲渡した場合の法人税
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
平成22年10月以降に法人が100%子法人へ土地を譲渡した場合の法人税の取扱いについて教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.グループ法人税制の適用
平成22年税制改正により、平成22年10月1日以後の法人とその法人が発行済株式の全部を所有する法人(100%子法人)との間の一定の取引については、新しい税制(「グル-プ法人税制」といいます) が適用されることになりました。本問における土地譲渡についてもグル-プ法人税制の適用対象となり、法人税の具体的な取扱いは次の2.のとおりとなります。
2.一定の資産の譲渡損益の繰延べ
(1) 制度の概要
平成22年10月1日以降、法人が土地等の-定の対象資産(「譲渡損益調整資産」といいます)を、その100%子法人に譲渡した場合は、資産を譲渡した法人(譲渡法人)において譲渡損益の所得計算への算入が繰り延べられます。
(2) 譲渡損益調整資産の範囲
譲渡損益調整資産とは、土地、建物等の固定資産、有価証券、金銭債権及び繰延べ資産で、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のものをいいます。土地等以外の棚卸資産や譲渡直前の帳簿価額が1,000万円未満の資産は、譲渡損益調整資産から除かれます。時価が高い資産であっても譲渡直前の簿価が1,000万円未満のものは、この税制の対象外となります。
(3) 繰延べとなる譲渡損益
繰延べとなる譲渡損益は、譲渡利益額ないし譲渡損失額といいます。譲渡利益額とは、譲渡対価の額が譲渡原価の額よりも大きい場合の差益をいい、譲渡損失額とは、譲渡原価の額が譲渡対価の額よりも大きい場合の差損をいいます。この場合の原価の額とは、譲渡損益調整資産の譲渡直前の帳簿価額のことをいい、対価の額とは、譲渡損益調整資産の譲渡の時の価額、すなわち時価をいいます。
(4) 繰り延べられた譲渡損益が戻入れとなる場合
グル-プ法人間の譲渡損益調整資産の譲渡は、その譲渡損益を永久に課税対象外とするものではなく、繰延べを行うものです。したがって、一定の事由が生じた場合には繰り延べられた損益が戻入れとなり、法人税の課税対象とされます。
繰り延べられた譲渡損益が戻入れとなる場合と戻入れの時期については、それぞれ次のとおりとなります。
①譲受法人が譲渡損益調整資産を譲渡等した場合
譲渡法人から譲渡損益調整資産を取得した法人(譲受法人)において、その資産を譲渡その他一定の事由が生じた場合には、譲渡損益調整資産の譲渡法人は、その事由が生じた日の属する譲受法人の事業年度終了の日の属する譲渡法人の事業年度において、繰り延べられた譲渡損益を戻入れします。
例えば、法人A社が、平成22年10月1日に100%子法人のB社(9月決算)に土地を譲渡した場合、譲渡した事業年度のA社の土地譲渡損益は繰延べとなります。その後、平成23年3月1日にB社がその土地を転売した場合、繰り延べられていたA社の土地譲渡損益は戻入れとなります。この場合、B社における土地の転売先には、特に制限はありません。また、A社における土地譲渡損益の戻入れの時期は、B社の譲渡日の属する事業年度終了の日(平成23年9月30日)の属する事業年度となります。
②譲渡損益調整資産の譲渡後に100%子法人の株式を同族
関係者以外の者が取得した場合
譲渡損益調整資産の譲渡後、譲渡法人(預法人)が100%子法人の株式をその親法人、100%子法人その他同族関係者以外の者に譲渡等をしたことにより、同族関係者以外の者が譲受法人(従前の100%子法人)の株主となった場合には、その事由が生じた日の前日の日を含む譲渡法人の事業年度において、譲渡法人において繰り延べられている譲渡損益をすべて戻入れします。
(5) 通知義務
(4)のとおり、譲受法人において転売等の事実が生じたときには、必ず、譲渡法人で繰り延べられている譲渡損益の戻入れとなり、益金又は損金への算入が行われます。このため、法人税法では、本問のように法人が100%子法人に譲渡損益調整資産の譲渡を行う場合には、譲渡法人又は譲受法人に対し、譲渡資産が譲渡損益調整資産に該当することや、譲渡損益を計上すべき事由が生じたことについて、譲受法人又は譲渡法人に通知することを義務づけています。