税務相談
月刊不動産2007年2月号掲載
平成19年度税制改正・事業用資産の買換え特例の延長
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
個人の譲渡所得における事業用資産の買換え特例のうち、「長期所有の土地建物等から土地建物等への買換え特例(=15号買換え)」は、平成18年をもって廃止という話を聞きましたが、本当でしょうか
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
1.特例の2年延長
ご質問のとおり、本来「15号買換え」は、適用期限満了により平成18年12月31日をもって廃止される予定でした。ところが、平成18年12月14日に発表された「平成19年度税制改正大綱」では、「15号買換え」の延長が盛り込まれ、さらに2年間、平成20年12月31日まで存続することが濃厚となっています。延長の理由としては、土地等の買換えを活用した土地の有効利用、新規事業展開や事業拠点の再編を税制面で支援することが挙げられ、このために税制改正大綱に急きょ「15号買換え」の延長が盛り込まれることとなったようです。
なお、「15号買換え」の概要についてまとめると、次のとおりになります。
2.事業用資産の買換え特例の概要
個人が長期所有の不動産を譲渡した場合、譲渡益に対して20%の税率で所得税と住民税が課税されます。このため、個人が事業内容の転換を図るため、所有する事業用資産を売却して別の事業用資産を購入したい場合でも、納税のために売却代金のうち新しい資産の購入代金に充てる額が限られてしまいます。そこで、税制面で個人事業者の事業内容の転換を後押しするため、一定の条件を満たした事業用資産の買換えのための譲渡については、原則として譲渡益のうち 80%部分の課税を繰り延べ、譲渡益の20%のみに課税する制度が「事業用資産の買換え特例」です。
事業用資産の買換え特例は、対象者が個人の場合、全部で17種類あります(なお、ほぼ同じ制度が法人税にもあります)。この特例のうち、平成19年の税制改正で2年延長が盛り込まれ、平成20年12月31日までの譲渡について適用が見込まれているのが「長期所有の土地建物等から土地建物等への買換え=15号買換え」です。
3.「15号買換え」の概要
「15号買換え」の適用があるのは、個人が国内にある譲渡年1月1日の所有期間が10年超の事業用不動産を譲渡して、事業用不動産や機械装置等に買い換えた場合です。つまり所有期間10年超の事業用不動産から事業用不動産等への買換えであれば、国内のどこでも買換えが可能であり、事業用資産の買換え特例のなかでも大変使い勝手がよい制度となっています。
4.適用を受ける際のポイント
(1)不動産の取得日と譲渡日の考え方
個人が買換え特例の適用を受けるためには、原則として事業用資産を譲渡し、譲渡年の翌年までに買換え資産を取得することが必要です。(なお、この場合における譲渡日と取得日の考え方については、2007年1月号16頁の税務相談Q&A「譲渡所得における土地や建物の譲渡日と取得日」をご参照ください。)
(2)事業用の判定
事業用資産の買換え特例は、譲渡資産及び買換え資産が事業の用に供されていることが要件となります。「事業用」に該当するかどうかの判定においては、次の項目がポイントになります。
(a)「事業」は、相当の対価(減価償却費や固定資産税等の必要経費を控除して利益が生じる額)を得て継続的に行われることが前提となります。
(b)空き地や特別の施設を設けないで物品置場や駐車場として利用している土地は、事業用に該当しません。
(3)譲渡年の翌年に買換え資産を取得する場合
譲渡年の翌年に買換え資産を取得する見込みの場合は、譲渡年分の確定申告書に「買換え資産の明細書」を添付し、翌年以降に取得する見込みである資産につき見積額で取得したとものとして譲渡所得の計算をします。実際に取得した資産の取得価額等が見積額と異なるときであっても、特例の適用は認められます。買換え資産を取得した場合には、取得日から4か月以内に登記簿謄本や取得を証明する書類等を税務署に提出します。さらに、「実際の取得価額が見積額より少ない」場合や「買換資産を取得しなかった」場合は、修正申告で差額税金を納付します。逆に、「実際の取得価額が見積額よりも大きい」場合は、更正の請求により税金の還付手続を行うことになります。