税務相談

月刊不動産2010年8月号掲載

小規模宅地等に係る相続税の特例の改正

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

平成22年度税制改正により改められた小規模宅地等に係る相続税の特例について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.小規模宅地等に係る相続税の特例の概要

     個人が相続や遺贈によって取得した財産の中に居住用や事業用に使用されていた宅地等がある場合は、相続税の課税価格の計算上、その宅地等の評価額のうち一定割合を減額する特例があります。これを「小規模宅地等に係る相続税の特例」といいます。

    2.平成22年度税制改正の内容

     平成22年4月1日以降に開始する相続又は遺贈について、小規模宅地等に係る相続税の特例の取扱いが次のように改められました。

    (1) 事業や居住を継続しない場合の不適用

     相続人等が相続や遺贈により取得したものの相続税の申告期限まで事業又は居住を継続しない宅地等について、改正前は200㎡まで50%の減額が認められていました。

     今回の改正により、このような宅地等については減額の対象から除外されました。

    (2) 共同相続があった場合の適用判定

     改正前の税制では、居住用宅地を配偶者と居住しない子が共同で相続した場合、80%減額の対象となる配偶者の持分だけではなく、居住しない子の持分についても80%減額の適用がありました。

     今回の改正により、この取扱いが宅地等の取得者ごとにこの特例適用の可否を判定することに改められました。したがって、居住しない子が相続した宅地等については、減額の対象から除外されます。

    (3) 一棟の建物の敷地の評価

     一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうちに80%減額の対象となる居住用部分と貸付用部分がある場合、改正前は居住用部分のみならず、貸付用部分の敷地についても80%減額の適用がありました。

     今回の改正により、この取扱いが宅地上の建物の用途ごとに特例適用の可否を判定することに改められました。したがって、先程の特定居住用部分については80%減額、貸付用部分については50%減額の適用となります。

    (4) 複数の居住用宅地等がある場合の適用

     改正前の税制では、被相続人の居住用宅地等が複数ある場合について、どのように小規模宅地等の特例の適用をするかどうか、明確に規定されていませんでした。

     今回の改正により、小規模宅地等の特例の対象となるのは、主として居住の用に供されていた一の宅地等に限られることが明確にされました。

    3.改正の影響

    (1) 改正後の特例の概要

     平成22年度改正後の小規模宅地等に係る相続税の特例の概要をまとめると、次のようになります。

     ① 80%減額の対象となる被相続人等の事業用宅地等

     被相続人等の事業の用に供されていた宅地等で、次のイ.とロ.の要件をすべて満たすもの(②の50%減額の対象となる宅地等を除きます)が該当します。

     イ.宅地等の取得者が、その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに承継し、かつ申告期限までその事業を営んでいること。

     ロ.相続税の申告期限まで宅地等を有していること。

     ②50%減額の対象となる被相続人等の事業用宅地等

     被相続人等が貸家の敷地等の不動産貸付の用に供していた宅地等で、宅地等の取得者が相続税の申告期限までその宅地等を有しているものが該当します。

     ③80%減額の対象となる被相続人等の居住用宅地等被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、次のイ.又はロ.の要件を満たすものが該当します。

     イ.被相続人の配偶者が取得した宅地等

     ロ.被相続人の一定の親族が取得した宅地等で相続税の申告期限までその宅地等を有し、かつその宅地等において居住を継続していること

    (2) 改正による影響

     2.(2)のとおり、改正前は被相続人の配偶者が自宅敷地の一部でも相続すれば、敷地全体を80%減額の対象とすることが可能でした。このため、配偶者の相続する自宅敷地の持分を極めて小さくし、居住しない子が大半の持分を相続するように宅地等を分ける手法が採られていました。

     今回の改正により、このような分割による節税効果は失われています。改正前の税制を前提に納税資金計画の立案や、遺言の作成をしている場合には、早急の見直しが必要です。

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