法律相談

月刊不動産2007年5月号掲載

専任の取引主任者

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

今般従業員が退職し、専任の取引主任者の数が不足してしまいます。取引主任者証の交付を受けながら広告会社に勤める知人を、当社における専任の取引主任者とすることができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.ほかに勤務先がある知人を、専任の取引主任者とすることはできません。

    2.業法は、購入者の利益保護や宅地建物の流通円滑化を図るために様々なルールを定めています。このルールの中で重要な役割を担っているのが、取引主任者です。すなわち業者は、宅地建物を購入し、または賃借しようとしている者に対し、取引主任者をして、法定の重要な事項について、重要事項説明書を交付して説明させなければなりませんし(35条1項)、また重要事項説明書や契約成立後に交付すべき書面には、取引主任者の記名押印が必要です(同条4項、37条3項)。業者にとって、適正な業務遂行のためには、業務量に応じた取引主任者が不可欠となるわけです。

     そしてこのような取引主任者の役割の重要性にかんがみ、業者には、事務所・案内所等ごとに、一定数の専任の取引主任者(取引主任者証の交付を受けた者)の設置が義務付けられています(15条1項)。

    3.取引主任者設置義務の内容については、(1)設置場所、(2)取引主任者の数、(3)成年であること、(4)専任性、について、それぞれ検討しておく必要があります。

    (1) 設置場所取引主任者を設置しなければならない場所は、事務所と案内所等です。ここで事務所とは、商業登記記録等に登載され、継続的に業者の営業の拠点となる施設としての実体を有するものであり(ガイドライン)、案内所等とは、継続的に業務を行うことができる施設を有する場所などを意味します(規則6条の2)。

    (2) 取引主任者の数設置を義務付けられる取引主任者数は、法律では「事務所等の規模、業務内容等を考慮して国土交通省令で定める数」となっています。これを受け、規則において「事務所にあっては業務に従事する者の数(業務従事者)に対する5分の1以上となる数、案内所にあっては1以上の数とする」と定められています(規則6条の3)。ここでいう業務従事者数には、直接営業に従事する者だけではなく、一般管理部門に所属する者や補助的な事務に従事する者も含まれます。

    (3) 成年であること未成年者であっても、成年者と同一の能力を有する者は、主任者証の交付を受けることにより、取引主任者となることができます。しかし専任の取引主任者になれば、実質的に相当の責任を負わなければなりません。そのために専任の取引主任者の要件としては、未成年者では足りず、成年者であることが求められています。

    (4) 専任性業者が取引主任者を雇ったとしても、常時取引主任者がいないとすれば、消費者が求めるときに必要な対応をすることができません。責任の所在が不明確になるおそれもあります。そのために業者が設置しなければならないのは、「専任の」取引主任者とされます。業者の設置する取引主任者には、専任の状態にあるという専任性が必要です。

     専任性があるとは、もっぱらその事務所・案内所に常勤し、業者の業務に従事する状態にあるという意味です。ほかに勤務先をもっており、一般社会の通念における営業時間に、業者の事務所に勤務することができない場合には、専任性は認められません。したがって、かけもちをすることはできないわけです。ご質問のケースについても、知人が広告会社に勤務している以上、たとえ取引主任者証の交付を受けていても、貴社の専任の取引主任者にはなれません。

    4.業者は、取引主任者設置義務に違反する事務所等を開設してはなりません。従業員の退職などによって既存の事務所等が取引主任者設置義務に違反することになったときには、2週間以内に必要な措置をとる義務があります(15条3項)。ご質問者も、取引主任者設置義務に違反する状態をつくり出してはなりませんし、万一、従業員の退職によって専任の取引主任者が足りなくなってしまったならば、2週間以内に法に適合する状態にしなければなりません。

     取引主任者は、日常的に顧客と接する業者の顔であって、業者が社会から信頼を得るための要となる存在です。専任の取引主任者の状態が、法律と違反することにならないよう、日頃から細心の注意を払っておく必要があります。

page top
閉じる