賃貸管理ビジネス

月刊不動産2021年08月号掲載

家賃を下げて募集することを、なぜオーナーが嫌がるのか

今井 基次(株式会社ideaman 代表取締役)


Q

閑散期になり空室期間が長くなると、入居促進のために募集家賃の値下げ交渉を行います。地主さんには比較的了承をしてもらいやすいのですが、サラリーマン大家さんは家賃を下げる提案をすると、ほぼお断りされます。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     オーナーの目的を知ることが大事です。長期保有をする地主さんは、物件を売却する前提がないため、家賃を値下げしてでも入居づけできれば問題ありません。一方、売却を前提とした場合、家賃の値下げは物件の価値そのものを下げることになるため、簡単に了承されないのです。

  • 1. 家賃下落の背景

     住宅の需給バランスが崩れ、賃貸住宅においても全国的に空き家が目立ちます。新築物件であっても、完成時に満室が当たり前だった時代とは異なり、ずいぶんと入居づけに苦戦する地域が増えてきました。管理会社としては空室対策が最大の課題となりますが、オーナーへの提案の仕方をどのようにしていくのかが重要となります。
     新築時の家賃を「100%」とした場合、築年数の経過によって家賃は下落していきます。下げ幅は1年間で1%~1.5%といわれていますが、地域や需給バランスによってもその変化に違いが出ます。企業や大学の撤退で大幅に需要が下がれば、地域での空室率が増え、家賃は下落の一途を辿ります。そのまま何も対策を講じなければ、家賃は下落し続けるため、空室を手っ取り早く埋めるためには、入居が決まるまで下げ続けるという考え方は決して間違っているわけではありません。入居希望者は、より良い条件で割安な物件を求めますから、「お得感」は需要を大きく刺激します。

  • 2. オーナーが不動産を保有する目的は何か

     結論は「適正な家賃」にすることとはいえ、提案ロジックを大切にしなければ「何も考えずに言っている」と、オーナーから不信感を持たれてしまうことになります。『家賃を下げましょう』としか言わない「ディスカウント提案型」の管理会社は、オーナーからの信頼感を得られなくなります。
     オーナーが不動産を保有する目的はそれぞれですが、「売却を考えず保有し続ける」のか、「遠くない将来売却を考えている」のかを知っておかなければなりません。先祖代々の土地にアパートを建築していて、将来的に古くなったら建て替えるということであれば、適正な相場家賃に下げて入居してもらうことが一般的です。しかし、売却を前提とした場合、家賃を下げて決めることにはなかなか同意を得ることができません。その理由は、家賃を下げることが売却価格を大幅に下げることになるからなのです。

  • 3. 収益不動産の評価方法

     収益不動産の評価は、「積算法」と「収益還元法」が使われます。積算法とは、いわゆる土地と建物の価値を評価して価格を決める方法のことです。銀行が融資をする場合、担保評価をしなければなりませんが、ほとんどのケースでこの積算法を用いることになります。
     そして、もう1つが収益還元法です。得られる収益(家賃収入)から市場の利回りで還元して物件価値を決める手法です。物件を購入する人は、できるだけ高利回り物件を求めるのですが、そこで重要な基準になるのが「家賃」なのです。たとえば、家賃5.2万円で10部屋のアパートがあるとします。この場合、年間最大家賃収入は624万円となります。仮に入居が決まらないということで、全部屋の家賃を2千円下げたら、年間最大家賃収入は600万円となります。つまり年間24万円の家賃差損が出てしまいます。これを収益還元するとどうなるのでしょうか。仮に市場利回りが7%と想定した場合で、家賃を維持できた場合は6 2 4 万円÷7%=8,914万円となり、仮に一部屋あたり2千円下げた場合は6 0 0 万円÷7%=8,571万円となり、利回りは同じでも売却価格が約343万円も変わってしまうのです。家賃をたった2千円下げただけなのに、収益還元法で計算をすると売却価格が大きく変わってしまうため、売却を前提としているオーナーは家賃を下げることを嫌がるのです。よって、そのようなケースでは家賃を下げることよりも、フリーレントや広告宣伝費を多めに設定してでも、家賃を維持することが求められることになるわけです。
     とはいえ、売却をするとしても満室にしなければ買手が見つかりにくいのですから、いずれにしても入居づけすることが求められます。どのような提案をするにしても、まずは現状分析、戦略、そして提案という「ロジック提案型」になることで、オーナーに意図を組んでもらいやすくなるのです。

page top
閉じる