法律相談

月刊不動産2011年12月号掲載

実測売買

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

実測売買といわれる売買の方式は、民法上の数量指示売買を意味するのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.実測売買といわれる売買の方式は、民法上の数量指示売買を意味するものではありません。

    2.(実測売買・公簿売買という用語)

     土地売買における売買代金の決め方に関し、実測売買・公簿売買という用語が使われることがあります。一般に、実測売買は、契約書に不動産登記上の地積(公簿面積)を記載して一応の売買代金を定めた上、契約後決済前に実測を行い、公簿面積と実測面積の差について、契約に定めた単価をもって清算を行う取引方式、公簿売買は、公簿面積と実測面積との差を清算しない取引方式を意味します。

    3.(数量指示売買)

     民法では、他人の権利の売買について「売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる」(民法563条1項)と定められ、この条文が「数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する」(民法565条)として数量指示売買にも準用されることによって、数量指示売買における売買代金の減額請求が認められています。

    4.(実測売買と数量指示売買の違い)

     実測売買と数量指示売買には、3つの点において、違いがあります。

    ①売買代金清算が予定されているか。

     実測売買は、実測後の清算が予定されますが、数量指示売買では、必ずしも清算は予定されません。数量指示売買は、「当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積があることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買」(最高裁昭和43年8月20日判決)であるにすぎず、面積不足があった場合、売主に担保責任として代金減額請求によって数量不足の責任を負担させるものです。

    ②売買契約後決済前に実測の予定があるか。

     実測売買では、決済前に実測を行い、売買代金の過不足を調整しますが、数量指示売買では、必ずしも決済前の実測がなされるわけではありません。

    ③面積超過の場合に売買代金が増額されるか。

     実測売買では、実測面積が公簿面積よりも広かったときには、公簿面積と実測面積の差について、契約に定めた単価によって売買代金が増額されます。

     他方数量指示売買においては、面積超過の場合も代金増額請求が当然に認められるものではありません。「民法565条にいういわゆる数量指示売買において、数量が超過する場合、買主において超過部分の代金を追加して支払うとの合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。しかしながら、同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから、数量指示売買において数量が超過する場合に、同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできない」(最高裁平成13年11月27日判決)とされています。

    5.(まとめ)

     土地売買において実測売買・公簿売買という概念が用いられることは少なくありません。実測売買が数量指示売買を意味すると誤解される場合もあります(専門家でも多くの方が誤解しているようです)。

     しかし、数量指示売買が法律上の概念であるのに対し、実測売買や公簿売買という用語は、法律上の概念ではなく、また、厳密な意味内容をもつものでもありません。契約書の条項において、公簿売買あるいは実測売買の文言を用いるのは、適当とはいえないことには、留意しておかなければなりません。

     全日本不動産協会の土地売買契約書の契約書式では、「土地の対象面積は、登記簿によるものであり、実測面積と相違しても売主、買主双方とも異議を申立てないものとします」(第4条)と定め、公簿売買を標準的なスタイルとした上、実測売買とする場合は、『本物件の対象面積は、測量によって得られた面積とします』『前項の測量の結果、得られた面積と標記の面積とに差異が生じたときは残代金支払日に標記の単価により売買代金を清算します』と変更してください、とのコメントが付されています。

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