法律相談

月刊不動産2018年2月号掲載

宅建業法上の売主の義務

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 宅建業者が自ら売主となる場合の不動産取引において、宅建業法ではどのようなルールが定められているのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 自ら売主となる場合に 定められている8種規制

     宅建業法は、自らが売主となる場合の規制(自ら売主規制)に関して、(1)自己の所有に属しない宅地建物の売買契約締結の制限(宅建業法33条の2)、(2)クーリングオフ(同法37条の2)、(3)損害賠償額の予定等の制限(同法38条)、(4)手付の額の制限等(同法39条)、(5)瑕疵担保責任についての特約の制限(同法40条)、(6)手付金等の保全措置(同法41条)、(7)割賦販売契約の解除等の制限(同法42条)、(8)所有権留保等の禁止(同法43条)の8つを定めています。8つの種類があることから、8種規制(8種類制限)ともいわれています。

  • 2. 自ら売主規制

    (1)自己の所有に属しない宅地建物の売買  契約締結の制限(宅建業法33条の2) 宅建業者は、自己の所有に属しない宅地建物(他人の所有物)について、自ら売主となる売買契約(売買予約を含む)を締結してはなりません。

     例外として、宅建業者が宅地建物を取得する契約を締結しているときなどは、他人の所有物の売買が可能です。ただし、他人の所有物の取得契約の効力発生に条件が付されているときには、例外とは認められません。また、農地法5条の都道府県知事の許可を条件とする売買契約も、効力発生に条件が付されている取得契約となり、他人の所有物売買禁止の対象となります。

     

    (2)クーリングオフ(同法37条の2)

     宅建業者が自ら売主となる売買では、宅建業者の事務所等以外の場所で購入の申込み、または売買契約を締結した買主は、書面により、購入申込みの撤回または売買契約の解除(クーリングオフの通知)を行うことができます。クーリングオフの通知は、書面を発信したときに効力が生じます。

     もっとも、購入申込者・買主について、①購入の申込みの撤回、または売買契約の解除を行うことができる旨、およびその申込みの撤回等を行う場合の方法について告げられた場合において、その告げられた日から起算して8日を経過したとき、②購入申込者・買主が、宅地建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払ったときには、クーリングオフの権利を行使できなくなります。

     購入申込者・買主がクーリングオフの権利を行使した場合には、宅建業者は、損害賠償や違約金の支払いを請求することができません。また、宅建業者は速やかに購入申込み、または売買契約の締結に際し受領した手付金その他の金銭を返還しなければなりません。

     

    (3)損害賠償額の予定等の制限(同法38条)

     宅建業者が自ら売主となる売買では、当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の額の10分の2をこえることとなる定めをしてはなりません。

     

    (4)手付の額の制限等(同法39条)

     宅建業者は、自ら売主となる売買では、売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2をこえる額の手付を受領することはできません。また、宅建業者が手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであっても、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄して、宅建業者はその倍額を償還して、契約の解除をすることができます。

     

    (5)瑕疵担保責任についての特約の制限(同法40条)

     宅建業者は、自ら売主となる売買では、目的物の瑕疵担保責任に関し、その期間制限を目的物の引渡日から2年以上とする特約を除いて、民法の定めるルールよりも買主に不利な特約を設けることは、禁止されています。

     

    (6)手付金等の保全措置(同法41条・41条の2)

     宅建業者は、保全措置を講じた後でなければ買主から手付金等を受領してはならず、買主は、保全措置が講じられない場合には手付金等を支払う必要がありません(ただし、所有権移転の登記がなされたとき、手付金等の額が代金の5%以下等であるときなどは例外)。

     

    (7)割賦販売契約の解除等の制限(同法42条)

     宅建業者は、割賦販売契約において割賦金の支払いがない場合に、30日以上の期間を定めて書面により支払いを催告してこの期間内に支払いがないときでなければ、契約の解除および残りの割賦金を請求することができません。

     

    (8)所有権留保等の禁止(同法43条)

     宅建業者は、所有権留保による売買契約をしてはならず、引渡しまでに登記の移転等をしなければなりません。また、引渡し後に担保目的でそれを譲り受けること(譲渡担保)も禁止されています(ただし、受領した額が代金額の10分の3以下である場合等は例外)。

  • 3.業者同士の場合

     自ら売主の場合の8種規制は、いずれも買主を保護する趣旨の定めです。買主が宅建業者である場合には、対等な当事者間の契約となりますから、特段の保護の必要はなく、売買契約の内容は、当事者の自由な判断に委ねるべきです。そのために、8種類の自ら売主規制の定めは、宅建物取引業者相互間の取引については、適用しないとされています(宅建業法78条)。

  • Point

    • 宅建業法は、自らが売主となる場合の規制(自ら売主規制)に関して、8種類の定めを置いている(8種規制)。
    • 8種規制は、いずれも買主を保護するための定めである。
    • 8種規制は、買主が宅建業者である場合(宅地建物取引業者相互間の取引)については、適用されない。
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