税務相談

月刊不動産2012年2月号掲載

子が親の借地権が設定された土地を取得し地代の授受が行われなくなった場合の贈与税

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

子が親の借地権が設定された土地を取得し、親子間で地代のやりとりが行われなくなった場合の贈与税の取扱いについて教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.個人の借地権者と個人の地主間で地代のやり取りがなくなった場合の法律関係

     借地権の目的となっている土地(底地)を借地権者(個人)以外の者(個人)が取得し、その土地の取得者とその借地権者との間に地代のやりとりが行われないこととなった場合においては、その地代のやりとりが行われないこととなった原因をどのように考えるかにより、贈与税の課税関係も異なります。

     この地代のやりとりが行われなくなったことについて、課税関係の前提となる民法の視点から考えると、次のとおりとなります。

     賃貸借契約は、契約の更改により無償契約となった場合には使用貸借契約となります。これに対し、賃貸借契約を更改せずに、将来受けるべき全賃料(地代)債権の放棄や免除を行う場合、賃貸借は使用貸借とはなりません。なぜなら、賃貸人による全賃料債権の放棄など賃借人の同意を要しない単独行為により賃貸借契約が更改されると、賃借人が賃貸借契約上の利益を失うことになり、民法の学説上、そのような取扱いは不当と解釈されているためです。

     以上のように地代のやりとりが行われないこととなった原因が、(1)賃貸借が更改により使用貸借になったためなのか、または(2)従来通り賃貸借は継続しているが将来の全賃料債権を放棄や免除したにすぎないのかにより、民法上の取扱いは大きく異なります。これに合わせて、贈与税の課税についても次の2.(1)と(2)の二つの取扱いが設けられています。

    2.個人の借地権者と個人の地主間で地代のやり取りがなくなった場合の課税関係

    (1)課税関係の原則

     借地権の目的となっている土地(底地)を取得した者と借地権者との間で地代のやりとりが行われないこととなる場合、借地権者と地主の関係は、ご質問の場合のように親子や夫婦などの特殊関係者間であることがほとんどです。具体例としては、借地契約の更新時に地主からその土地の買取りの申出があったが、借地権者である親が買取る資金がないので、その土地を子が買取り、買取り後に親子間で地代のやりとりが行われなくなった場合が挙げられます。

     このような場合には、土地の取得者と借地権者との間に地代のやりとりがなくなり、その当事者間の土地の賃貸借契約が使用貸借契約に更改されたものとみなされても、特に法律上、当事者間において不都合は生じません。また、地代のやりとりが行われていない場合の土地の使用関係は、外見上からも原則的には、使用貸借とみるのがふさわしいといえます。

     そこで、借地権の目的となっている土地を借地権者以外の者が取得し、その土地の取得者(本問では子)と借地権者(本問では親)との間に地代のやりとりが行われないこととなった場合は、原則、土地の賃貸借契約の更改があったものとし、その土地の取得者(子)は、その借地権者(親)から借地権の贈与を受けたものとされ、贈与税が課税されます。

    (2)借地権者の地位に変更がない旨の申出書を提出した場合

    ①贈与税が課税されない場合

     上記(1)の場合においても、土地の賃貸借契約を更改せずに、将来受けるべき地代の放棄や免除を行う場合もありえます。そこで税務上は、借地権の目的となっている土地の使用に係る地代のやりとりが行われないことになった理由が、使用貸借に基づくものでないとして、その土地の取得者(本問では子)からその住所地の所轄税務署長に対し、その借地権者(本問では親)との連署により借地権者は従前の土地の所有者との間の土地の賃貸借契約に基づく借地権者としての地位を放棄していない旨の申出書(これを「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」といいます)を提出した場合には、そのとちの取得者(子)がその借地権者(親)からその土地に係る借地権の贈与を受けたとする上記(1)の取扱いは適用されないこととしています。

    ②借地権者に相続が発生した場合

     上記(2)①の「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を税務署長に提出した場合において、提出後に借地権者(親)の相続が発生したときには、その借地権は親の相続財産として相続税の課税対象となります。

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