法律相談

月刊不動産2014年10月号掲載

売買物件の価額の意見表示

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

売買の媒介の依頼を受け、物件の売買価格についての意見を述べることになりました。意見の根拠を依頼者に表示する際には、書面を用いなければならないのでしょうか。また、意見の根拠表示にあたっては、どのような点に注意する必要があるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 回答

    意見の根拠の表示は、書面を用いずに口頭だけで示す方法と、書面を用いて示す方法のいずれを採ってもかまいません。ただ意見の根拠には合理性が求められます。また書面を用いるときは、不動産の鑑定評価に関する法律(不動産鑑定評価法)に基づく鑑定評価書でないことを明記するとともに、みだりに他の目的に利用することのないよう依頼者に要請することも必要です。

    2. 売買の媒介契約における書面作成義務

    さて民法には、媒介契約(仲介契約といっても、意味に違いはない)に関する定めはありません。媒介契約は、当事者の意思の合致だけで成立します。

    しかし不動産流通市場の近代化には、契約関係の明確化が不可欠です。そのため宅建業法は、「宅地または建物の売買または交換の媒介の契約(媒介契約)を締結したとき」は、遅滞なく、法定の事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない、と規定し、売買の媒介について、宅建業者に対し、書面の作成と交付を義務づけています(同法34条の2第1項はしら書き)。書面の記載事項の一つとして、「売買すべき価額またはその評価額」が定められています(同法34条の2第1項2号)。

    3. 価額の意見を述べるときの根拠明示義務

    売買当事者が物件の売買価額を決定する上で、宅建業者の査定価格は、大きな影響力を持っています。そこで宅建業法は、「価額または評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない」(同法34条の2第2項)として、価額の意見を述べるときの根拠明示義務を定めました。

    意見の根拠は、価格査定マニュアル(公益財団法人不動産流通近代化センターが作成した価格査定マニュアルまたはこれに準じた価格査定マニュアル)に基づく方法や、同種の取引事例を考慮する方法など、合理的な説明がつくものであることを要します。また、意見表示にあたっては、費用請求と事例の収集管理についても、留意すべき注意事項があります(宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方34条の2関係)。

    (1)費用請求 根拠の明示は、法律上の義務なので、そのために行った価額の査定等に要した費用は、依頼者に請求できません。

    (2)事例の収集管理 媒介価額は、取引事例の収集を行い同種、類似の取引事例を使用して評価することが多いのですが、取引事例の中には顧客の秘密に関わるものが含まれています。取引事例を顧客や他の宅建業者に提示したり、その収集および管理を行う指定流通機構に報告する行為は、宅建業者が宅建業法34条の2第2項の規定による義務を果たすため必要な限度において宅建業法上の正当な理由があると解されるものであり、事例の収集管理には、次のとおり、特に慎重を期さなければなりません。

    ①収集する情報は、価額の査定を行うために必要な成約価額、成約の時期、物件に関する情報に限るのであり、取引の当事者の氏名等の情報については、収集をしてはならない。

    ②営利を目的として取引事例の伝達の事業を営むことには、正当な理由は認められない。

    ③媒介価額に関する意見の根拠として適当な取引事例について説明する場合には、依頼者にその取引事例をみだりに口外しないよう要請し、また価格査定マニュアルの評価内容を書面で渡すときはその旨を説明することが必要である。

    ④売り急ぎ、買い急ぎなど特殊な事情のある取引事例は、収集等の対象としてはならない。

    4. 不動産鑑定評価法による規制

    不動産鑑定評価法は、不動産の鑑定評価に関し、不動産鑑定士および不動産鑑定業について必要な事項を定め、土地等の適正な価格の形成に資することを目的とする法律です。不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することを「不動産の鑑定評価」(同法2条1項)、自ら行うと他人を使用して行うとを問わず、他人の求めに応じ報酬を得て、不動産の鑑定評価を業として行うことを「不動産鑑定業」と定義した上で(同法2条2項)、不動産鑑定業者の登録を受けない者は、不動産鑑定業を営んではならないものとしています(同法33条)。
    この規定に違反して、不動産鑑定業を営んだ者には、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられ、またはこれらが併科されます(同法56条2号)。

    宅建業者の日常業務において査定を行うことは重要な業務ですが、不動産鑑定評価法に違反することがないように注意しなければなりません。

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