法律・税務・賃貸Q&A

売買契約後決済前の災害による建物の滅失

弁護士 渡辺 晋
山下・渡辺法律事務所

質問

売買代金の一部を内金として支払って建物を購入しましたが、決済の前に、大地震が発生し、建物が滅失してしまいました。それでも残代金を支払わなければならないでしょうか。また、すでに支払い済みの代金の返還を請求することができるでしょうか。

月刊不動産2020年02月号掲載
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回答

1. 引渡し前であれば支払いを拒める

 建物の滅失が、建物の引渡しを受ける前であれば、残代金の支払いを拒み、また、支払い済みの代金の返還を求めることができます。他方、建物の滅失が、建物の引渡しを受けた後だと、残代金の支払いを免れず、支払い済みの代金の返還を求めることもできません。

2. 危険負担の原則

 さて、契約上当事者双方が互いに義務を負担する契約を、「双務契約」といいます。改正前の民法では、双務契約において、契約後決済前に、物の引渡債務を履行できなくなったとき(後発的不能、債務者に責任がない場合)、反対給付(他方の債務)が消滅するかどうかが、危険負担の問題と捉えられていました。
 危険負担の取扱いには、債権者主義と債務者主義があります。債権者主義とは、後発的不能のリスクを債権者に負わせる考え方[たとえば、建物の売買契約について、契約日から2カ月後に決済(残代金支払い・引渡し)が予定されていたところ、契約日から1カ月後に地震が発生し、建物が倒壊してしまった事例で、反対債務(売買代金債務)を存続させること]であり、債務者主義とは、後発的不能のリスクを債務者に負わせる考え方[この事例において反対債務(売買代金債務)を消滅させること]です。
 これまで、民法の条文上は、債権者主義の原則が採られていました(改正前民法534条1項)。しかし、建物が滅失したのに買主が代金支払義務を負うという債権者主義は、通常人の感覚と異なり、常識的とはいえません。そのために、一般的に売買契約書の中で、決済前に建物が滅失した場合には、代金債務を消滅させるとの取決めがなされ、特約で民法の条文の非常識が修正されていました。

3. 民法改正による考え方の転換

 改正後の民法では、まず、後発的不能について、反対債務の消滅への影響を問題にする構成を取りやめました。そのうえで、当事者の一方(建物の売買では売主)の債務が履行不能になったときには、相手方(建物の売買では買主)に、反対債務(売買代金債務)の支払いを拒絶する権利、および、契約を解除する権利を与えました(改正後の民法536条1項、542条1項1号)。したがって、特約で定めなくても、民法上、買主は売買代金を拒むことができ、また、契約を解除できることになります。

4. 売買契約における取扱い

 加えて、改正によって、売買については、決済前に引渡しがなされた場合には、引渡し後に履行不能となっても、「その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失」したときは、「買主は、代金の支払を拒むことができない」として(改正後の民法567条1項)、危険が移転するという定めが設けられました。たとえば、契約日の3カ月後に決済(残代金支払い)が予定され、契約日の1カ月後に引渡しがなされていたところ、契約日の2カ月後に地震が発生し、建物が倒壊してしまったというケースでは、引渡し以降に建物が滅失していますから、買主は代金の支払いを拒むことができないということになります(図表)。

5. まとめ

 売買契約書では、一般的に、契約後決済前に目的物が滅失した場合の契約の取扱いについての特約が設けられ、目的物が滅失したときには、契約を解除できる、または、代金債務は当然に消滅するなどの条文が設けられています。したがって、本稿で紹介した民法の改正内容は、実務には特段の影響を与えません。
 しかし、最近のわが国の自然災害による被害状況をみれば、危険負担の問題は絵空事ではなく、差し迫った検討課題です。日常的に利用している契約書の文言についても、それが法律的にどのような意味をもっているのかを理解しておくことは、専門家である宅建業者の責任ということになります。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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