法律相談

月刊不動産2017年10月号掲載

売買契約が解除になった場合の仲介報酬

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 不動産の買主から依頼を受けて当社が仲介業務を行い、売買契約が成立しましたが、買主の債務不履行によって、売買契約が解除になってしまいました。当社は買主に対して、仲介報酬を請求できるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 請求可能だが全額はできない

     仲介報酬を請求することができます。ただし、仲介契約に定められた仲介報酬の全額を請求することはできません。請求額は、売買契約が履行された場合の合意報酬額の金額を上限として、取引額、仲介業務の難易、期間、労力、契約が履行されずに終わった事情など、その他諸般の事情を斟酌して定められます。

  • 2. 仲介報酬の意義

     仲介とは、取引当事者の間に立って、物件を紹介して案内をしたり、取引条件の交渉をするなど、契約成立(成約)のために尽力する行為です。

     仲介業者が報酬を請求するためには、

    ①依頼者と仲介業者の仲介契約

    ②仲介契約に基づく仲介業者の契約成立への尽力

    ③仲介行為の結果による依頼者と相手方との契約の成立

    の3つが必要です。他方、この3つの要件を満たした場合には、報酬を請求できるのであり、契約の履行完了までは、求められません。

     ただし、仲介契約において定められた報酬額を請求することができるのは、依頼者と相手方との契約の履行が完了した場合です。最判昭和49.11.14(最高裁判所裁判集民事113号211頁)では、「仲介人が宅地建物取引業者であって、依頼者との間で、仲介によりいつたん売買契約が成立したときはその後依頼者の責に帰すべき事由により契約が履行されなかつたときでも、一定額の報酬金を依頼者に請求しうる旨約定していた等の特段の事情がある場合は格別、一般に仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である」とされています。

  • 3.相当の報酬

     商法は、商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができると定めています(同法512条)。民法上は、他人のために行為をしたときには特約がなければ報酬を請求することができないのが原則ですが、商人の行為は通常営利の目的をもって行われることから、商法上は、明示的な特約がなくても、相当の報酬を請求することができると定められているわけです。

     契約が履行完了に至らなかった場合には、仲介業務の報酬については、仲介契約に加え、商法512条の定めに基づいて請求することになります。

  • 4.裁判例

     売買契約が買主の債務不履行によって解除された場合の媒介報酬が問題とされた裁判例として、東京地判平成23.1.20(2011WLJPCA01208004)があります。

     建築会社S社が新たに建築するマンションをYが購入することについて、仲介業者XがYとの間で仲介契約を締結したうえで、S社を売主、Yを買主とするマンションの売買契約が成立し(売買代金32億1,900万円)、Yが仲介契約で定められた報酬の半額(4,134万3,750円)を支払ったけれども、その後、Yの債務不履行によって、S社とYの売買契約が解除になったという事案です。Xは、Yに対して、報酬の残額(4,134万3,750円)の支払いを求めましたが、Yがこれを拒んだために、訴えが提起されました。

     判決では、前記最判昭和49.11.14を引用したうえで、「本件では、依頼者の責めに帰すべき事由により契約が履行されなかったときでも一定額の報酬金を依頼者に請求し得る旨の約定はされていない。そうすると、仲介の目的である売買契約が解除によって終了した場合の定めがないことになり、その請求可能額は、商法512条に基づき、契約履行時における合意報酬額たる金額を上限として、本件売買契約の取引額、仲介業務の難易、期間、労力さらには売買契約が履行されずに終わった事情など、その他諸般の事情を斟酌して定めるべきである。

     本件媒介契約の報酬金額は、契約時と引渡時(建物竣工時)にそれぞれ4,134万3,750円と定められたこと、本件売買契約の代金額は32億1,900万円であること、仲介業務として原告は平成17年4月ころから、YとS社との間の協定書の内容の調整や本件売買契約の締結に向けて両社間と打合せや契約条項の調整を行い、重要事項説明書の作成も行ったこと、Yの債務不履行を原因として本件売買契約が解除になったことを総合考慮すると、既に支払がされた4,134万3,750円に加え、1,000万円を報酬金額とするのが相当である」とされました。

  • 5.まとめ

     宅建業者にとって、仲介報酬は重要な会社の収益です。まず、宅建業法の定めに従って仲介契約を締結し、仲介契約書を作成するとともに、依頼者と相手方との契約の確実な履行に協力しなければなりません。依頼者と相手方との間で売買契約が締結されれば、仲介報酬の請求は可能ですが、履行が完了されたときの報酬からみれば、解除の場合はかなり減額になることを、理解しておく必要があります。

  • Point

    • 売買契約が成立すれば、売買の履行がなされなくても、仲介業者は、依頼者に対して、仲介報酬を請求することができる。
    • しかし、売買の履行がなされなかった場合に仲介業者が請求できる報酬額は、売買の履行がなされた場合の金額と比べると、減額となる。
    • その場合に仲介業者が請求することができる額は、取引額、仲介業務の難易、期間、労力、契約が履行されずに終わった事情など、その他諸般の事情を斟酌して定められる。
    • 東京地判平成23.1.20では、売買の履行がなされたならば請求できた金額が4,134万3,750円(報酬の残額)であるところ、裁判所によって認められた請求額は、1,000万円とされた。
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