法律相談
月刊不動産2004年7月号掲載
地役権の対抗要件
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
私の土地は公道に面していませんので、公道への通路部分について、所有者Xとの間で通行地役権を設定しました。地役権の登記はしていません。ところが、その後この土地の所有権がXからYに移転し、Yから通行を妨害されています。Yに通行妨害をやめるよう請求できるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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客観的に通路であることが明確になっており、Yがこれを認識できたときは、Yに対して、通行地役権に基づき妨害をしないように求めることができます。
地役権者は、設定行為に定めた目的に従って他人の土地を自己の土地の便益に供することができます(民法280条本文)。法律上、地役権によって便益を得る土地を要役地、便益を与える土地を承役地といいます。本件では、質問者の土地が要役地、通路部分の土地が承役地です。
土地が直接に公道に接していないときには、他人の土地を通る必要があります。その公道に接していない土地に関し、通路を確保するために、通路部分の土地所有者との間で、公道に接しない土地を要役地、通路部分を承役地として、地役権を設定することは、一般的に行われていることです。このようにして設定された地役権が通行地役権です。通行地役権者は、地役権の設定者に対し、通行の権利を主張することができます。
しかし地役権は、不動産に関する物権のひとつです。不動産に関する物権変動は、登記をしなければ、これをもって第三者に対抗することはできないとされています(同法177条)。そのため地役権についても、登記が問題になります。
ところで民法177条は、典型的には、不動産の二重譲渡を想定し、登記を不動産の物権変動の対抗要件と定める条文です。不動産の二重譲渡とは、旧所有者が、第一譲受人と第二譲受人に不動産を二重に売却してしまうケースです。第一譲受人と第二譲受人とのどちらかが先に登記を得れば相手方に対して物権の取得を主張できることになるとともに、第一譲受人も第二譲受人もいずれも登記を得ていなければ、いずれも相手方に対して所有権の取得を主張できないということになります。
そして物権を取得したとしても、登記をしなければ、第三者には、物権取得の主張をすることができないのは、二重譲渡の場合だけでなく、その他の物権変動にも当てはまるというのが、民法の基本的な考え方となっています。ご質問のケースでも、条文の上からは、地役権設定に関する第三者である新所有者Yに対しては、地役権を主張することができないようにも考えられます。
けれども、すべての譲受人に対して登記が必要という考え方を貫くと、実際上は不都合が生じます。例えば全くの無権利者が不動産を不法占有しており、譲受人が不法占有者に対し明渡請求をした場合に、譲受人が登記を得ていないからといって、無権利者が譲受人に登記のないことを主張し、譲受人からの明渡請求を拒むというのは、常識的にみてもあり得ないことでしょう。そのため、民法177条に定める第三者とは、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいうというのが、判例となっています。
さて本件におきましても、新所有者Yが、民法177条の第三者に該当するならば、地役権を主張することはできないことになりますが、最高裁は、「譲渡の時に、承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造などの物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠けつを主張する第三者には当たらない」と判示をしました(最高裁平成10年2月13日判決)。従いまして、Yが土地を譲り受けた時点において、通路として使用されていることが客観的に明らかであり、かつ、Yが通路使用を認識しあるいは認識することが可能であったときは、Yに対して、通行地役権に基づき妨害をしないように求めることができることになります。