法律相談

月刊不動産2007年7月号掲載

地主の相続

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

借地上の建物の売買を仲介していますが、地主に相続が発生しているにもかかわらず、土地の登記名義が変更されていないことが判明しました。この場合に、調査し、検討すべき事項は何でしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.調査、検討すべき事項

     仲介業者として調査、検討しなければならないのは、(1)土地所有権が誰に帰属しているか、(2)土地所有者による借地権の譲渡承諾を得られるか、(3)承諾を得られないとしたら、建物の購入者はどのような手段をとり得るのかなどの事項です。

    2.土地所有権の帰属と借地権譲渡承諾

     さて他人の土地上に建物を所有するには、土地の利用権が必要です。利用権がなければ、建物収去義務が生じます。借地上の建物が売買される場合には、売主は、買主に土地の利用権を取得させなくてはなりません。

     土地の利用権が賃借権であるときは、法律上賃貸人に無断で賃借権を譲渡することはできず(民法612条1項)、借地権譲渡についての、賃貸人の承諾が必要となります。そこで土地所有者に相続が発生している以上、賃
    貸人の承諾を得るためには、まず誰が土地所有者で賃貸人となっているのかを、確かめなければなりません。

     所有者の確認には登記記録のチェックが欠かせません。土地所有権の移転登記がなされていれば、登記名義人が土地所有者であるとして、その承諾を求めればよいことになります。

     しかし本件では、登記名義が被相続人のままになっているというのですから、登記記録だけでは、所有者が判明しません。土地の所有権が相続によって誰に移転したかを調査する必要があります。

     ところで民法は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(898条)と定めています。したがって相続人が複数ならば、その複数の相続人が全員共有者です。借地権の譲渡も、相続人全員の承諾が必要です。

     もっとも、遺産分割が完了していれば、事情は異なります。共同相続人は、原則としていつでもその協議で遺産の分割をすることができ(同法907条1項)、遺産分割がなされれば、その効力は相続開始の時にさかのぼります(同法909条本文)。借地権の譲渡承諾も、遺産分割によって土地を取得した相続人から取得すればよいということになります。

     仮に一部の相続人が自分が土地の所有者だと主張しているようなことがあっても、登記記録又は遺産分割協議書によって土地の所有権者を確認することができない場合には、業者としては、自称の土地所有者を賃貸人として業務を取り進めてはなりません。

    3.借地権譲渡承諾を得られないケース

     土地所有者が誰かが判明した後には、土地所有者に借地権の譲渡承諾を求めることになりますが、問題は、土地を取得した相続人が、借地権の譲渡を承諾してくれないケースです。この点については、借地借家法に法的な手当てがなされています。

     すなわち借地借家法では、借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、譲受人が賃借権を取得しても土地所有者に不利となるおそれがないにもかかわらず、土地所有者が賃借権譲渡を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、土地所有者の承諾に代わる許可を与えることができると定められています(借地借家法19条1項前段)。裁判所が、土地所有者に代わって許可をすることにより、借地権を譲渡できることとなります。賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮して許可の可否が決定されます(同条2項)。

    4.業務上留意すべき事項

     土地所有者に相続が発生したことは分かっても、登記がなければ、誰が土地を相続したのかを正確に把握することは困難です。また、もし新たな土地所有者が判明したとしても、その所有権は対抗力を備えていない不安定なものにすぎません。土地所有権について疑義を残したままで、売買契約成立の方向に導くことは、大変に危険です。

     土地所有者が誰であるかが不明であったり、権利変動の登記がなされていないケースにおいては、仲介業者の役割は、建物所有者と買受希望者にその旨を丁寧に説明し、法的に無理のある取引は慎むようにアドバイスをすることだと考えるべきです。

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