法律相談

月刊不動産2002年4月号掲載

土地の売買にあたって通行地役権で注意すべきことを教えてください。

弁護士 草薙 一郎()


Q

土地の売買にあたって通行地役権で注意すべきことを教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 【A】
     地役権とは「設定行為ヲ以ツテ定メタル目的ニ従ヒ他人ノ土地ヲ自己ノ土地ノ便益ニ供スル権利」と規定されています。(民法280条)
     つまり、例えばAとBという土地があって、Aという土地がBという土地の便益に供される関係を指すわけで、この場合のAという土地を承役地と言い、Bという土地を要役地と言います。
     通行地役権を前提とすると、Bという土地から公道に出るためAという土地を通行する必要があるという場合に、Aという土地の上にBという土地のために通行地役権を設定するということになります。

    【Q】
    通行地役権を設定してあるAという土地を売買するときに、A地の上に地役権の登記がなければ買主に損害は生じないのでしょうか。

    【A】
    地役権も物権ですので、本来は民法177条の問題になります。
     民法177条は不動産の権利の優劣については、登記の前後で決定することを規定しています。
     したがって、A地に地役権の登記が設定されていなければ、A地の第三取得者はA地の地役権の拘束を受けることにはなりません。
     しかし、平成10年に注目すべき判決が下されていますので紹介します。
     事案は元の所有者から土地を購入したXが公道に出るために、元の所有者から通行地役権を設定してもらっていたところ、通行していた土地が第三者Yに譲渡され、Yとの間で通行に関してのトラブルが生じたケースです。Xは土地に通行地役権の登記をしていませんでしたが、Yへの譲渡の時点では通行していた土地について、アスファルト舗装をし、排水溝を設置するなどしていました。また、第三者所有者Yは元の所有者から問題の土地を購入するにあたって、Xとの間の通行地役権の存在は確認していませんでしたが、Xが問題の土地を通路として利用していることは認識していました。
     このような事案で、最高裁判所は以下のような判断を示しました。
    「通行地役権の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に道路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権を設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと解するのが相当である」
     として、Xの通行地役権は登記なくして、第三取得者であるYに対抗できると判断しました。(平成10年2月13日判決、判例時報1633号74ページ以下参照)
     さらに、このようなケースで、XはYに対して地役権設定登記を求めることができるのかについても、「通行地役権者は、譲受人に対して、同権利に基づいて地役権設定登記手続きを請求することができ、譲受人はこれに応ずる義務を負うものと解すべきである。」と判断しました(最高裁判所平成10年12月18日判決、判例時報1662号91ページ以下参照)。
     以上のように、通行地役権のケースでは登記がされていなくても、通行している事実やその状況によって第三所得者に対して、通行地役権を対抗することができるケースがあり、しかも、その場合、地役権者の求めに応じて登記をする義務が認められてしまうこともありますので、現状確認が何よりも大切です。

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