賃貸相談

月刊不動産2004年11月号掲載

合意解除と解約予告期間の賃料支払義務

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

賃貸借契約の期間内解除は6ヶ月の予告が必要と定めています。賃料を滞納している賃借人から解除の申出があったので合意で解除しましたが、予告期間の6ヶ月分の賃料は請求できるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.賃貸借契約の期間内解除条項

     一般的に、建物の賃貸借契約は契約期間を定めて合意されています。例えば、賃貸借期間は2年間とするというぐあいです。ところで、契約期間を定めて賃貸借契約を締結すると、当事者はこの契約期間に拘束されることになります。
     つまり、2年間という期間を定めて賃貸借契約を締結したのですから、賃貸人は2年間は賃借人に貸し続ける契約上の義務があり、賃借人は2年間は賃料を支払って借り続ける契約上の義務があるわけです。
     この場合に、賃貸人側からの解除が認められるかというと、借地借家法の正当事由制度で賃借人は保護されていますから、原則として、賃貸人から解除はできないことは周知のとおりです。
     それでは、賃借人の側からは自由に賃貸借契約を解除できるかというと、そうではありません。賃借人も賃貸借契約を締結した以上、契約は守らなければなりません。2年間という期間を定めて契約した以上は、2年間は賃料を支払う必要があります。
     民法では、賃貸借契約の解約はどのように定められているかといえば、期間を定めないで賃貸借契約を締結した場合には、当事者はいつでも解約を申し入れることができ、この場合には賃貸借契約は解約申入後3ヶ月を経過することによって終了することとされています(民法第617条)。
     つまり、民法上は自由に解約ができるのは期間を定めなかった契約の場合だけなのです。
     それでは、期間を定めた賃貸借契約の解約はどのようになるかというと、民法では、当事者が期間を定めた場合には、「期間内ニ解約ヲ為ス権利ヲ留保シタルトキハ前条(617条)の規定を準用ス」と定められています。この意味は、期間を定めたときは原則として期間内解約はできないけれども、「解約をなす権利を留保したとき」は期間内解約ができるということです。この「解約をなす権利を留保」に該当するのが、賃貸借契約で一般的に使用されている「期間内解約条項」といわれるものです。例えば「甲及び乙は本契約期間内に本契約を解約しようとするときは相手方に対し6ヶ月の予告をもって行う。乙が即時に本契約を解約するときは6ヶ月分の賃料を支払わなければならない。」というような規定がこれに当たります。
     賃借人の期間内解除については借地借家法は特別の規定を設けていないので、借地借家法のもとでも、期間を定めた契約の場合は期間内解約条項がない限りは、賃借人も期間内解除はできないことになります。

    2.期間内解約と合意解除の区別

     ところで、賃借人側から賃貸借契約を解除したいと申し出られた場合に、賃貸人がこれを了承して賃貸借契約が終了した場合には、賃借人は期間内解約条項を利用して賃貸借の解約申入れをしたのか、それとも、これは期間内解約とは異なる当事者間の合意解約なのかということが紛争になっています。合意解約であれば、当事者が合意で賃貸借契約を終了させるのですから6ヶ月を待たずして、直ちに賃貸借契約は終了することになり、賃借人は6ヶ月の予告期間分の賃料の支払義務は負わないことになるからです。
     判例では、賃借人が多額の負債を抱え、倒産が避け難い状況にあったケースで、賃貸人の側もできれば賃貸借は終了されたいと考えていた事案において、賃借人が解除を申し出て、賃借人は6ヶ月の予告期間分の賃料は支払わなくともよいとしたものがあります(東京地裁平成5年6月14日判決)。つまり、合意解除の場合は、期間内解約条項で定められた条件に従う必要はないというわけです。
     こうしたトラブルは、賃借人の申出が期間内解約条項に基づくものか、合意解除の申込みなのかが不明であることから生ずるものです。したがって、賃借人からの契約解除の申出は、必ず書面で、何を根拠に契約解消を申し出るのかを明確にさせることが必要不可欠ということになります。

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