法律相談

月刊不動産2013年1月号掲載

取引主任者

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

重要事項説明にあたって、取引主任者証が手元にないときには、法律で携帯が義務づけられている従業者証明書を提示した上で、後日、取引主任者証を提示するという方法をとっていいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.回答

     取引主任者には重要事項説明にあたり、説明の相手方に対して取引主任者証を提示する義務があります(宅建業法35条1項・4項。以下、本稿において単に条文を掲げるときは宅建業法の条文)。 後日取引主任者証を提示しても、取引主任者証を提示して説明をしたことにはなりません。また、48 条1 項は宅建業者に従業者に従業者証明書を携帯させることを義務付けてはいるものの、従業者証明書をもって取引主任者証に代えることもできません。

    2.取引主任者の制度

    (1)宅建業法は購入者の利益保護および宅地建物の円滑な流通を目的とします。この目的達成のために重要な役割を担うのが、取引主任者証の交付を受けた者、すなわち、取引主任者です。取引主任者証は試験に合格し登録を受けた者が都道府県知事に申請することによって交付されます(22条の2第1項、18条1項)。取引主任者証の有効期間は5年で、更新も可能です(22条の2第3項、22条の3第1項)。

    (2)宅建業者は、宅地建物を購入し、または賃借しようとしている者に対し、取引主任者として法定の重要な事項について重要事項説明書を交付して説明させなければならないものとしており(35条1項)、重要事項説明書や契約成立後に交付すべき書面には、取引主任者の記名押印が必要です(同条4項、37条3項)。宅建業を適正に遂行するため、取引主任者は不可欠の存在と位置付けられているわけです。

    (3)取引主任者の役割の重要性に鑑み、事務所・案内所等ごとに、一定数の専任の取引主任者の設置が義務付けられています(15条1項)。事務所とは、商業登記簿等に登載され継続的に業者の営業の拠点となる施設としての実体を有するもの、案内所等とは継続的に業務を行うことができる施設を有する場所などです(宅建業法施行規則6条の2)。

     次に、設置を義務付けられる取引主任者数は、「事務所にあっては業務に従事する者の数(業務従事者)に対する5分の1以上となる数、案内所にあっては1以上の数とする」です(同規則6条の3)。業務従事者数には直接営業に従事する者だけではなく、一般管理部門に所属する者や補助的な事務に従事する者も含まれます。

     また、専任の取引主任者は成年者でなければなりません。未成年者であっても成年者と同一の能力を有する者は、主任者証の交付を受けることにより取引主任者となることはできます。しかし専任の取引主任者には相当の責任を伴うので、未成年者では足りず、成年者であることが求められています。

     さらに、宅建業者が設置しなければならないのは、「専任の」取引主任者です。宅建業者が取引主任者を雇ったとしても、常時取引主任者がいないとすれば、消費者が求めるときに必要な対応をすることができません。責任の所在が不明確になるおそれもあります。そこで法は専任性を求めました。専任性とは、もっぱらその事務所・案内所に常勤し、業者の業務に従事する状態にあるという意味です。ほかに勤務先をもっており、一般社会の通念における営業時間に業者の事務所に勤務することができない場合には、専任性は認められません。

    3.従業者証明書携帯の制度

     宅建業者は、従業者にその従業者であることを証する証明書(従業者証明書)を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはなりません(48条1項)。従業者は、取引の関係者から請求されたときには、従業者証明書を提示しなければなりません(同条2項)。
    これらの制度の趣旨は、現実の取引においては、多くの関係者が取引に関与し、当事者からみて誰がどのような立場で関与しているかが判然としない場合があることに鑑み、宅建業者と従業者の関係を明確にし、業務運営の適正化を図ることにあります。従業者には、宅建業者と雇用契約関係にある正規雇用社員だけではなく、契約社員・パート等の一時的に雇用された従業者、派遣社員等の非正規社員も含まれ、また、社長以下非常勤の役員も含まれます。

     さらに同様の趣旨から、宅建業者には事務所ごとの従業者名簿の備え付け、取引の関係者から請求があったときに閲覧に供する義務も課されています(同条3項・4項)。

    4.まとめ

     宅建業に携わる者にとって取引主任者証の提示や従業者証明書の携帯は、日常業務における基本中の基本です。業務に慣れ、仕事が疎かになってしまうことがないよう、常に基本を意識しておくことが大事です。

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