賃貸相談

月刊不動産2010年3月号掲載

区分所有建物の第三者への賃貸

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

私は8階建の建物の1、2階を区分所有で所有しています。1階を店舗として賃借希望の会社が、私の所有する1階部分の外壁に看板を設置させてほしいと希望していますが、応じても問題はないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.区分所有建物の規律

     1棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの(これを「専有部分」といいます)がある場合には、その各部分は「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」といいます)が適用されることになります。区分所有形式の貸ビルやいわゆる分譲マンション等はこれに該当します。

     区分所有建物は、要するに複数の者が1棟の建物内に各自が専有部分に対する区分所有権を有し、建物を共同で使用収益するため、各区分所有者の利害を適正に調整するための必要な規定が設けられています。

     したがって、区分所有建物における専有部分を第三者に賃貸しようとするときは、区分所有法の定めに従う必要があり、それが区分所有法の規定に照らし、適正に認められるものであるか否かを検討しておく必要があります。

     それでは、区分所有建物を第三者に賃貸する際に気をつけておくべきポイントは何かというと、①管理規約の内容の検討と、②共用部分の扱いを間違えないようにするということです。

    2.区分所有建物における規約

     区分所有法30条1項は、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と定めています。この規約には、専有部分をいかなる用途に用いるかについても定められている場合がほとんどです。

     したがって、管理規約で定めることのできる範囲は相当に広いものと考えられ、管理規約で区分所有建物の使用目的についても限定しているケースは少なくありません。例えば、区分所有建物の使用目的を「専用住宅」と定める場合などですが、このような定めがある場合には、専有部分を店舗目的で賃貸することは規約違反となり、事情によっては「区分所有者は…建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」(区分所有法第6条1項)の規定に反することになりかねません。

     専有部分の賃借人は、専有部分の「占有者」となりますが、区分所有法では「占有者は、建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき、区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う」(区分所有法46条2項)と定められていますので、規約は賃借人に対しても効力を生ずることになっています。

     このため専有部分を賃貸する場合には、それが規約に反するものであるか否かにつき、きちんと検討しておく必要があります。

    3.共用部分の取扱い

     次に、賃貸人が所有している区分所有部分である1階部分の外壁に看板を設置するということについては、そのまま応ずることはできません。なぜなら、1階部分の占有部分を全て所有しているとしても、区分所有建物の外壁は共用部分だからです。なぜなら、区分所有法4条は「数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とはならない。」と定めており、1階部分の室内は所有者の区分所有権が認められますが、建物の躯体そのものは区分所有者全員の共用に供される部分だからです。

     共用部分については誰が権利を有しているかといえば、区分所有法11条は「共用部分は区分所有者全員の共有に属する」と定めており、区分所有者全員の所有であるとされています。したがって、外壁に看板を設置するための賃貸借契約の締結は、共有物の管理に関する事項になるため、原則として、区分所有者の集会の決議によって決定されることになります (区分所有法18条1項)。ただし、これについては規約で別段の定めができることとされていますので(区分所有法18条2項、例えば「管理組合理事会の決議により決定する」等)、規約の内容を確認し、規約にしたがって外壁に看板を設置することの手続を行うことが必要になりますので、共用部分についての契約には留意が必要です。

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