賃貸相談
月刊不動産2013年4月号掲載
区分所有ビルの賃借人の使用範囲
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
当社所有の区分所有ビルの1室をA社に賃貸したのですが、A社は当社が使用していたトランクルームと1階玄関部分の空いたスペースに看板を設置したいと要求しています。どう対応すべきなのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.区分所有建物の賃貸借
賃貸人が建物の所有権を全て有している場合には、建物賃貸借に伴い、賃借人がどの範囲の部分に使用権を有するかは当事者間の契約で自由に決めることが可能です。
これに対し、区分所有建物は、区分所有者が原則として自由に使用収益することのできる専有部分と、区分所有者全員が共有する共用部分とに分かれます。区分所有建物内のトランクルームと玄関部分のスペースはいずれも専有部分ではなく、共用部分ですので、区分所有者の一人である賃貸人が単独で賃貸借契約を締結しても、契約どおりの効果が得られるわけではありません。
区分所有ビルには、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」という)が適用されますが、区分所有法第11 条は「共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。」と定めており、共用部分の使用について同法13 条は、「各共有者は、共用部分をその用方に従って使用することができる。」と定めています。
共用部分の管理については、区分所有法第30条では「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」としており、この規約により共用部分の用法等についても定めることが可能です。さらに、区分所有法第18条では、共用部分の管理に関する事項は、集会の決議で決すると定められています。
これらの規約や管理組合の決議と、当該区分所有建物の賃借人との関係については、区分所有法第46 条では「規約及び集会の決議は、区分所有者の特定承継人に対しても、その効力を生ずる。」と定めていますので、専有部分の賃借人も規約や集会の決議は遵守する必要があります。
2.トランクルームの使用について
賃貸人である専有部分の区分所有者がそれまでトランクルームを使用していたからといって、賃貸人の所有する専有部分を賃借した賃借人が当然に賃貸人の使用していたトランクルームを使用できるとは限らないことに注意する必要があります。
というのは、管理規約等により、区分所有者が有償で使用できる共用部分については、管理組合あるいは管理者が選任されている場合は管理者と利用契約を締結した者に限り、有償で、かつ使用細則を遵守することを条件に使用収益が認められるものとしている場合があり得るからです。
したがって、こうした共用部分を賃貸使用とする場合は、従前に自分が利用していたからといって、当然に当該共用部分の賃貸権限があるとは限りませんので、必ず管理規約を確認することが必要です。管理規約を確認して、賃借人にも使用権が認められるのか、その場合の手続はどうなっているか、他にトランクルームの使用を希望する区分所有者がいる場合の優先関係はどのように定められているか、といった点を確認しておくことになります。
3.玄関部分の空きスペースでの賃借人の看板設置
玄関部分は、区分所有法上は、「専有部分以外の建物部分」に該当しますので、共用部分です(区分所有法第2条4項)。
前述のとおり、共用部分は区分所有者の共有に属しており、共用部分の管理は、集会の決議で決定することとされていますので、賃貸人が区分所有者の一人として共用部分の共有持分を有しているからといって、当然に共用部分を第三者に賃貸し得る権限を有しているわけではありません。
したがって、専有部分を賃借した賃借人は、当然に共用部分を看板設置等に使用できる権利を有するわけではありません。このためには、賃貸人が、管理組合との間で、玄関部分を賃借人の看板設置のために使用することの承諾を得て賃借人に賃貸するか、あるいは賃借人が、賃貸借契約とは別途、管理組合との間で玄関部分に看板を設置するために使用することについての契約を締結する必要があります。この場合に、規約にこれに関する定めがあれば、それに従いますが、定めがない場合は、区分所有者の集会の決議がこれを決定する必要があります。
4.区分所有建物の賃貸の場合の留意事項
区分所有建物を賃貸する場合は、その対象部分が専有部分か共用部分かによりルールが異なります。共用部分に属する場合は管理規約の内容を確認し、管理規約に規定がない場合は、集会の決議を得る必要があることに留意する必要があります。