法律相談
月刊不動産2013年11月号掲載
共用部分の改修工事
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
私が所有しているマンションは、十分な耐震性を確保できていません。調査の結果、柱の一部を切断し免震のための部材を挿入するなどの工事をしなければならないことが分かりました。工事を行うための決議は、普通決議で足りるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.回答
柱の一部を切断し免震部材を挿入するなど、基本構造部分を変える工事の実施を決定するには、普通決議ではなく、特別決議が必要です。ただし、今般、建築物の耐震改修の促進に関する法律(以下「耐震改修促進法」という)の改正によって導入された「区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定」の制度を利用すれば、普通決議で足ります。
2.決議方法の原則
さて、耐震工事は共用部分を変更する工事ですから、集会決議が必要です。区分所有法では、「共用部分の変更(その形状または効用の著しい変更を伴わないものを除く)は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決する」(同法17条1項本文)、「共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する」(同法18条1項本文)と定められ、形状・効用の著しい変更を伴わない場合には普通決議、形状・効用の著しい変更を伴う場合には特別決議、というルールが決められています。
工事内容と決議の種類との関係をみると、柱や梁にシートや鉄板を巻き付けて耐震性を高めるなどの工事であれば、基本的構造部分を変えることなく施工できますから、普通決議で足ります。けれども柱の下部を切断し免震のための部材を挿入するなどは、基本構造に手を入れる工事であり、特別決議が必要です。耐震壁の増設、ブレースや外付けフレームの新設なども、状況によっては、特別決議を要する工事に該当するものと考えられます。ご質問者のケースでは、原則として、集会の特別決議を経てから工事を行わなければなりません。
3.耐震改修必要性認定の制度創設
もっともマンションは多様な考え方をもつ人々の共同体です。基本構造にかかわるような耐震工事には多額の費用がかかりますから、多くの組合員が耐震工事が必要と考えたとしても、特別決議の成立要件を満たす多数者の同意を得るまでは至らないというケースもあります。特別決議を要する工事について、合意形成が難しいことが、耐震化の阻害要因となっています。
しかし耐震性が十分ではないのに耐震工事が実施できないならば、居住者は日常生活に不安を感じざるを得ません。資産保全の観点からも、適当ではなく、社会的にも耐震性が不十分のままに放置されることは望ましくありません。
そこで東日本大震災を受けて、今般、耐震改修促進法が改正され(平成25年5月29日公布、同年11月25日施行予定)、「区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定」(以下「耐震改修必要性認定」という)の制度が創設されました。
4.耐震改修促進法
平成7年1月の阪神・淡路大震災では、旧耐震基準で設計された建物に大破・倒壊などの地震被害が集中し、また死亡者の大多数が家屋倒壊等による圧迫死でした。そこで、旧耐震基準で設計された建物の耐震改修を促進し、地震に対する建物の安全性を向上させるために制定され、平成7年12月に施行されたのが、耐震改修促進法です。
今般、法改正によって導入された耐震改修必要性認定の制度は、所管行政庁が、耐震診断が行われた区分所有建物に対し、建物の耐震性が不足しており耐震改修が必要である旨の認定を行うものです。
耐震改修促進法25条に、『認定を受けた区分所有建築物(要耐震改修認定建築物)の耐震改修が建物の区分所有等に関する法律17条1項に規定する共用部分の変更に該当する場合における同項の規定の適用については、同項中「区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議」とあるのは「集会の決議」とし、同項ただし書きの規定は、適用しない』という規定が新設され、要耐震改修認定建築物とされたマンションにおいては、耐震工事により共用部分を変更する場合に必要な所有者および議決権が、各4分の3以上である必要がなくなりました。合意形成の要件が緩和されることになり、耐震工事が容易になったわけです。
宅建業者は、不動産取引に専門家として関与することによって、人々の安心・安全な暮らしに貢献する役割を担っています。消費者は、耐震性の問題に強く関心をもっていますから、宅建業者も、建物の安全性に関する制度について、最新の知識を備えておかなければなりません。