法律相談

月刊不動産2015年1月号掲載

共用部分についての瑕疵担保責任

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

私たちが購入した新築マンションでは、購入直後から外壁の剥離や剥落が続き、そのために危険な状態になり、新築後2年もしないうちに、外壁の大規模修繕工事を実施しなければならなくなりました。売主に対して、工事費用などについて、損害賠償請求をすることができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 回答

    購入直後に外壁の剥離や剥落によって危険な状態が生じることは、売買契約における瑕疵です。したがって、売主に対して、工事費用などについて、瑕疵担保責任としての損害賠償請求をすることができます。

    2. 売買契約の対象

    マンションは、専有部分と共用部分に分かれます。マンションの購入は、専有部分だけを購入することのようにもみえますが、共用部分は区分所有者の共有です。

    マンションの売買契約においては、売買の対象には、専有部分だけではなく、共用部分の共有持分も含まれます。瑕疵とは、売買の対象が本来有するべき品質を備えていないことであり、共用部分に瑕疵があれば、売主には責任(瑕疵担保責任)がありますから、損害賠償を請求することができます。

    3. バルコニーの手摺り部材落下

    マンションの共用部分の瑕疵に関する売主の責任を肯定した最近の裁判例として、東京地裁平成25 年3月11 日判決があります。上階901 号室のバルコニーの手摺り部材(本件部材)が外れ、下の階のルーフバルコニー上に落下したことに関し、次のとおり、売主Yの買主Xに対する責任が肯定されています。

    「本件部材は長さ145 センチメートル、幅3.5 センチメートルのアルミ製の棒であり、落下の際にはコンクリート破片の落下も伴ったものであって、ルーフバルコニーに人がいた場合には身体への危険が及ぶものと認められ、(中略)本件建物に付属するルーフバルコニーは、通常備えるべき品質・性能を欠いていたものというべきである(本件瑕疵)。

    そして、ルーフバルコニーは、本件マンションの共用部分であって、本件建物そのものではないけれども、規約上、玄関扉、窓ガラス等と同様に、区分所有者である本件建物所有者がその専用使用権を有することが承認されていることに照らせば、本件建物に付随するものとして、本件売買の目的物に含まれるというべきである。

    したがって、ルーフバルコニーに本件瑕疵があったことについて、本件建物の売主であるYは、Xに対し、売買の目的物に隠れた瑕疵があったものとして、瑕疵担保責任を負うというべきである。

    Yは、本件建物のルーフバルコニー及び901 号室バルコニーのアルミ手摺りはいずれも本件マンションの共用部分であって、本件瑕疵の問題は、本件管理組合との間で解決が図られるべきである旨主張するけれども、ルーフバルコニーは本件建物に付随するものとして、本件売買の目的物に含まれるというべきであるから、Yの主張は採用することができない」。

    4. 外壁の剥離・剥落に関する不動産価値の下落による損害

    福岡高裁平成18 年3月9日判決は、竣工後まもなくマンションを購入した買主から、外壁の剥離・剥落に関して、売主に対して、損害賠償請求がなされたケースです。補修工事は実施されてはいるものの、マンションの竣工前から外壁タイルの剥離・剥落が見られたうえ、その後も継続し、拡大したものであって、買主が販売の際に外壁タイルの剥離・剥落を知っていた可能性もうかがわれるとして、不動産価値の下落の損害まで、賠償に含めています。

    「本件マンションの上記瑕疵により、Xが購入した各室の経済的価値が、いずれもその購入時において、上記瑕疵がない場合のそれと比較して低下していることは否定しがたいところである。

    本件補修工事によって上記瑕疵が修復された結果、外壁としての機能上の問題は今のところ解消されたということができようが、本件マンションの外観上の完全性が回復されたということはできない。すなわち、本件マンションの上記瑕疵が顕在化したことから一度生じた、本件マンションの新築工事には外壁タイル以外にも施工不良が存在するのではないかという不安感や新築直後から本件マンションの外壁タイルに対して施工された大規模な本件補修工事から一般的に受ける相当な心理的不快感、ひいてはこれらに基づく経済的価値の低下分は、本件補修工事をもってしても到底払拭しがたいといわなければならない。
    そして、いわゆるマンション分譲における各室の購入者は、その経済的価値としては、各室の使用価値とともに交換価値(資産価値)にも重大な関心を有していることが一般である。(中略)そして、本件では、外壁タイルの施工不良が新築直後から顕在化していることからしても、この瑕疵による各室の交換価値の低下分を売主の瑕疵担保責任でもって填補する必要性は大きいといわなければならない」。

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