法律相談

月刊不動産2005年12月号掲載

共有物の売買契約解除

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

私と弟には親から相続した共有の土地があります。1週間前にこの土地の売買契約を締結しましたが、買主が決済日に約束どおり代金を支払ってくれそうもありません。弟の了解を得ずに私だけで売買契約を解除することができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 契約の解除は複数当事者全員でなければできませんので、弟さんと共同で売買契約の解除をする必要があります。弟さんの了解を得ずに、あなたが単独で解除をすることはできません。
     さて売買契約の買主は、決済日に代金を支払わなければならない義務を負います。したがって売主であるあなた方が決済日に土地の引渡しと登記手続の準備をした上で、買主に対し代金の支払を催告し、催告後相当の期間が経過しても代金が支払われないならば、売買契約を解除することができます。

     契約解除については、民法において、当事者の一方が数人ある場合には、その全員から又は全員に対してのみすることができると定められています(民法544条1項)。
     契約を解除したり、解除されたりする場合に全員一緒でなければならないことを、解除の不可分性といいます。解除に不可分性を認めないと、当事者が知らないうちに契約関係が消滅してしまうという不都合を生じますし、また一部の当事者だけについて契約が消滅し、ほかの当事者には契約関係が残っているという状態が生じることも、法律関係を複雑化させることになり適当ではありません。そこで、民法が解除に不可分性を認めたわけです。
     本件の契約における当事者の一方である売主は、あなたと弟さんという複数ですので、弟さんと共同でなければ契約解除をすることができないということになります。

     本件は契約当初から当事者が複数のケースですが、契約当初は当事者がひとりだけであったけれども、契約後になって相続のために当事者が複数になる場合もあります。そのようなケースについても、解除は不可分です。後発的に当事者が複数になった場合であっても、解除は、全員から又は全員に対して行う必要があります。
     契約解除については、債務が履行されないときに、一方的な意思表示によって解除される場合のほかに、両当事者の合意によって解除をする場合もあります。これを合意解除といいます。当事者の一方が複数のときは、合意解除も、複数当事者の全員で行う必要があります(高松高裁昭和34年6月16日判決)。
     なお、契約解除の不可分性を認めた民法544条1項は任意規定とされており、特約によってその適用を排除することが可能です。したがって、あらかじめ当事者全員でなく、一部の者が解除をし、あるいは一部の者に対する解除を行うことができると取り決められていた場合には、その取決めのとおり、一部からの解除や一部に対する解除が認められます。

     解除の方法としては、相当の期間を定めた履行の催告をし、その期間内に履行がないときにはじめて解除の意思表示を行うことができるというのが原則です(民法541条)。しかし、例えば「5日以内に売買代金を支払うよう請求する。5日以内に売買代金の支払がなければ、改めて意思表示をすることなく売買契約を解除する」というように、催告と停止条件付契約解除の意思表示を1回で行っておくことも、相手方の地位に不当な不利益を与えない以上は、有効であると解されています。

     ところで、共有物の賃貸借契約の解除については、共有物の売買契約の解除とは事情が異なります。すなわち、共有物の管理に関する事項は、共有持分の価格の過半数で決すると定められているところ(民法252条本文)、賃貸借の目的物が共有物であり、共有者から解除をする場合には、賃貸借契約の解除は共有物の管理行為になるがゆえに、共有持分の過半数で行うことができるとされているからです。最高裁も、「共有者が共有物を目的とする貸借契約を解除することは民法252条にいう共有物の管理に関する事項に該当し、右貸借契約の解除については民法544条1項の規定の適用が排除される」(最高裁昭和39年2月25日判決)と判断しています。

     売買契約を売主から解除する場合と、賃貸借契約を貸主から解除する場合の違いについても、留意しておく必要があります。

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