賃貸管理ビジネス
月刊不動産2023年12月号掲載
入居者ターゲットを設定して、決定率を高める空室対策を
今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役 合同会社ホーリーロッジ 代表社員)
Q
当社は、管理戸数7,000室の管理会社です。管理事業は先代から引き継いでいるため、20年以上の実績があります。従業員の勤続年数は比較的長く、これまで会社に貢献してくれています。
管理戸数は安定しているのですが、ここ数年で空室が増え続けており、以前のようには入居が決まりにくくなっています。従業員も真面目に働いてくれてはいるのですが、新しい取り組みに対しては動きが鈍く、空室対策の話をしても通り一遍のやり方だけで、ポータルサイトに情報を掲載しているだけです。このような状況ですが、空室を埋めていくために、どのような方法がよいのか教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
長く働いている従業員さんがいらっしゃるのは、とても良いことだと思います。ただ、一方で人の入れ替わりがないと、新しいアイデアや手法が入りにくく、これまでのやり方に依存しがちです。特に空室対策は、全国各地で課題となっており、これまで入居者がすぐに決まった物件に関しても、放っておけば決まる時代ではありません。どんな人に利用してもらうのか、マーケティング的な面をいま一度考え直してみましょう。
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1.入居するのは限られた「ひとり(一世帯)」
空室対策において「入居者ターゲットの選定」がおろそかにされがちです。早く決めようとして、より多くの人にターゲットを拡大するほど、かえって空室期間は増えてしまうものです。さらに多くの空室在庫を抱えると、どれか1つを優先することが難しく、その結果、手が回らないために、さらに空室対策がおろそかになり、負のスパイラルに陥ります。さらに反響を増やそうとポータルサイトを活用しても、ターゲットが決まっていないため、かえってどんな人に伝えたい広告なのかがはっきりせず、ただ掲載するだけにとどまってしまうのです。その結果、広告宣伝費ばかりがかさみ、結果が出ないことになります。確かに反響総数が増えれば、多くの人に見てもらえる可能性が高くなるため、成約数は高くなると思いがちです。しかし、何百人が内見しようと、最終的に決めてくれるのは、一部屋にたった「ひとり(一世帯)」なのです。その「ひとり(一世帯)」に刺さるよう、「選択と集中」が必要で、ただ反響数を増やすのではなく、決定率を高めるための施策が必要なのです。
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2.入居者のセグメントを特定する
決定率を高めるには、「入居する人」から逆算した部屋作りとマーケティングが重要です。入居する人、つまり「ターゲット」を明確にしたほうが、マーケティングの戦略が組みやすく、無駄な広告費をかけずに、効率的に入居決定率を高めることができるのです。賃貸住宅の募集方法や広告は、ターゲットが「マス」になりやすいのが特徴です。ポータルサイトでの募集が中心ということもあるのですが、窓口を広げることで、単身者でもファミリーでも「誰でも入ってもらえればOK」という考えに陥りがちです。しかし、供給過剰の市場では、この方法は良い方法とは言えません。
ターゲットを絞らないことは、かえって「空室情報の海」に物件が溺れることになってしまうのです。これを回避するには、「市場細分化(セグメント)」をして、狙うべきターゲットを明確にした方が良いのです。入居希望者の「年代」「性別」「ライフスタイル」などによって、求める設備やデザインは千差万別です。つまり狙うべきセグメントを特定し、そこに刺さりやすいマーケティング活動と物理的な空室対策が必要なのです(図表)。 -
3.入居者ターゲットの設定
入居者のセグメントを特定したら、次に、より具体的なターゲットを設定する必要があります。セグメントにもさまざまな属性があるため、より物件のレベルに適したターゲット設定をする必要があるのです。たとえば「20代後半・女性」に絞ったとしても、「年収」「職種」「ライフスタイル」などの属性によって、求められる物件は大きく異なります。
たとえば、物件の賃料設定が8万円とした場合、年間支払い賃料は96万円(8万円×12カ月)となりますが、家賃は一般的に年収の30%程度とされているため、96万円÷ 30%=320万円となります。つまり、年収300万円以下の人はターゲットにすることができません。
また、駅から遠い物件であれば、セキュリティ上の問題もあり、一般的には単身女性をターゲットにしにくくなります。しかし「在宅ワーク可能な、クリエイティブ職」であれば、夜遅くの帰宅の必要がないため、女性でも駅近くの物件である必要はなく、ターゲットになり得ます。ただ反対に、ワークスペースなどの広さを求める可能性があるかもしれません。
このように「賃料」「職種」「ライフスタイル」から逆算すると、より詳細なターゲットを設定できるはずです。
ここまでターゲットの人物像がはっきりすると、次は、空室対策をそのターゲットが入居する前提で進める必要があります。「賃料の設定」「壁紙の色」「ライフスタイルに合わせた設備」など、物理的な空室対策を進め、不足している箇所を改善していきます。
空室が増えたからといって「なんとなく募集」をしていることを改善し、ターゲットを決めるだけで、募集媒体や改善内容もより具体化するはずです。もちろん、実際に入居する人がターゲットと完全一致しないこともありますが「選択と集中」をすることで、より効果的な空室対策ができるのです。