法律相談
月刊不動産2002年9月号掲載
借地権付きの建物や、借地権の設定されている土地の売買にあたり注意すべき点を教えて下さい。
弁護士 草薙 一郎()
Q
借地権付きの建物や、借地権の設定されている土地の売買にあたり注意すべき点を教えて下さい。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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【A】
まず、先に借地権の設定されている土地の売買の注意点を説明します。
以前にも説明したように借地権付の土地の売買ですので、借地権が土地の売買に対抗できるものか否かの確認が必要です。
具体的には借地契約者が建物に保存登記をつけているか否かが重要なポイントになります。
もし、借地契約者と建物所有者とが異なっていれば、その借地権には対抗力がないことになります。
したがって、土地の新所有者は借地権の対抗を受けないことになり、建物収去の主張が可能となります。
法的には前述のようでも、実際に裁判ということになると大変な労力が必要でしょう。
また、借地権が新所有者に対抗でき、新所有者が地代請求が可能でも、地代に対する差押えがあるときは、差押えが優先されてしまい、差押えによる債権回収が終了するまでは、新所有者は地代を借地人から支払ってもらうことはできません。
さらに、借地権に対抗力があるときは、新所有者は旧所有者(つまり旧貸主)が受領していた敷金の返還義務を引継ぐことになります。【Q】
借地上の建物の売買ではどんなことに注意が必要でしょうか。【A】
この場合、借地権に対抗力があるか否かは重要なポイントですが、敷金についての注意をして下さい。
旧借主、つまり建物前所有者が地主に敷金を差し入れていたケースで、建物売買により新借地人になっても、旧借主が差し入れた敷金を当然に承継するわけではありません。
この場合、旧借主が差し入れた敷金について、旧借主から新借主にその返還請求権を譲渡しない限り、新借主はこれを承継することはありません。
そうなると、地主側よりは、建物売買に伴なう名義変更承諾料の問題のほかに、旧借主の敷金返還請求権を新借主に譲渡しないと借地権譲渡を承諾しないとの反論が予想されます。【Q】
建物について競売がなされたときはどうなるのでしょうか。【A】
借地権付きの建物が競売になって第三者が落札したときは、競落人は地主に対して承諾に代わる許可の裁判を求めることが可能です。
この場合、裁判所は借地借家法20条により、地主に不利でないケースでは承諾に代わる許可を下すことになります。
問題はこの場合の敷金の処理です。
前述のように借地権の譲渡があっても、新借地人は旧借地人が差し入れた敷金を当然に承継するわけではありません。譲渡当事者間で敷金返還請求権を移転する合意がないと、新借地人は承継しません。
そうすると、競売のときには、その合意がなされることは不可能です。そうなると、地主は敷金のない新借地人を迎え入れることになってしまいます。
そこで、裁判所はこのような場合、法20条の付随的裁判の一つとして、競落人に対して相当な額の敷金を地主に給付するよう命ずることができるとしました。
これにより、地主側からすると、承諾に代わる許可の裁判がなされるときに、名義変更承諾料とともに、敷金の給付を命ずる付随的裁判を得ることも可能になったわけです。
競売にあたっては、借地契約の中に旧借地人の敷金の交付があったか否かを調査しておく必要が生じることになりました。