賃貸相談

月刊不動産2008年4月号掲載

借地上でのアパート経営

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

今まで自己所有地でアパート経営をしていましたが、新たに土地を賃借してアパートを建築しようと思います。地主に承諾を得る必要があるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 借地上建物の賃貸借の法律関係

     (1) 借地上建物の第三者への賃貸借

     建物の所有を目的として土地を賃借した借地人が、借地上に建物を建築すること自体は、借地人としての当然の権利です。ですから、土地賃貸借契約に定められた目的に反しないものである限り、自宅、店舗、工場等、自由に建築することができます。

     賃貸借契約の目的が「建物所有の目的」とのみ記載されている場合には、共同住宅の建築も「建物所有の目的」の範囲内を逸脱するものとはいえないでしょう。

     ただし、共同住宅 (アパート・マンション) を建築する場合には、当然に借地上の建物 (アパート・マンション) を第三者 (借家人)に賃貸することになります。共同住宅の借家人はアパート・マンションに居住する以上は、それに必要な範囲内で事実上、土地も使用することになります。

     この場合には、土地の事実上の使用者は、地主-借地人-借家人という経緯をたどりますので、土地所有者から、借地上の建物を第三者に賃貸することは土地の転貸借に該当し、借地人が借地上建物を賃貸するのは地主の承諾を得ていない限り無断転貸になるのではないかとのクレームが出されることがあります。

     (2) 借地上建物の賃貸借と土地転貸借の成否

     しかし、借地上の建物を賃貸することは、土地の転貸借には当たらないと解されています。

     その理由の1つは、民法上、土地と建物は別個独立の不動産とされており (民法86条)、借地人が賃貸したのはあくまで建物であって、土地ではないということです。借地人と借家人との間の契約はあくまで建物の使用を目的としており、賃料も建物使用の対価として合意されているということが挙げられます。

     その理由の2つは、借家人は建物を使用する以上は建物に入るまでの敷地内の通路を通行したり、敷地内の庭を散策することもあるでしょうが、これらは不可避の出来事です。逆にいえば、建物を賃借しても、借家人が建物に至る敷地・通路を通行できないとすれば、建物賃貸借はおよそ役割を果たすことができなくなってしまいます。

     このため、法的には建物賃貸借契約はその性質上当然に賃借建物の敷地の利用権を含むものと解されているのです。したがって、借地上の建物を第三者に賃貸したからといって、土地の無断転貸に該当するわけではありません。借地上のアパート・マンションを経営しようとする場合に、地主に対する転貸承諾料等の支払いは法的には不要と解されています。

    2. 借地上にアパートを経営する場合の地主の負担

     借地上にアパート、マンションを建築する場合には地主の負担が大きくなるから、やはり承諾料を支払えとか、賃料を増額せよという要求が出されることもあります。借地人が自ら借地上に居住している場合とは異なり、借地契約が終了したときには、借地上アパート、マンョンの複数の入居者達の退去が必要となりますので、地主にとっての負担が大きくなるとの懸念がその理由のようです。

     (1) 借地契約終了時の借地上建物の賃貸借の終了

     借地上建物が賃貸されることが地主に格別の不利益を与えるか否かですが、借地契約が借地人の賃料滞納その他の契約違反により解除された場合には、借地権が消滅しますので、借地人は借地上建物を収去 (取り壊) し、更地にして返還する義務があります。

     借地権の終了は借家人に対しても対抗できますので、地主にとっては、借地人に対して明渡しを求めることができるという点では、法的な権利に変わりはありません。

     (2) 事実上の地主の負担の増加

     明渡しを求める際、実際には、まず各借家人に対して建物の退去を請求し、その上で (あるいはそれとともに)借地人に対して建物収去・土地明渡しを請求することになりますので、手続がやや煩瑣(はんさ)になることはいえると思います。

     しかし、このことから、建物所有の目的であることは認めながら、借地上建物を第三者に賃貸することを禁止することは困難というべきだと思われます。

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