税務相談
月刊不動産2009年4月号掲載
個人が海外不動産を譲渡した場合の所得税の取扱い
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
個人(居住者)が海外不動産を譲渡した場合の所得税の取扱いについて教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.個人の所得税の納税義務
(1) 居住者の定義
所得税法では、個人を居住者と非居住者に分け、それぞれについて納税義務を課しています。
①居住者(原則)
居住者とは、日本国内に住所があるか、現在まで引き続いて1年以上居所がある個人です。
②非永住者
居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年以下である人を、非永住者といいます。
(2) 非居住者の定義
非居住者とは、居住者以外の個人をいいます。
2.課税所得の範囲
(1) 居住者の定義
非永住者以外の居住者は、原則として国内で生じた所得及び国外で生じた所得のすべてについて、日本の所得税が課税されます。
したがって、非永住者以外の居住者が海外の不動産を譲渡したことにより生じた譲渡益についても、原則として国内にある不動産を譲渡した場合と同様に、日本の所得税が課税されます。
(2) 非永住者
居住者のうち非永住者は、国内において生じた所得の全部と、国内において生じた所得以外の所得のうち、日本で支払われ、又は国外から送金されたものについて所得税の納税義務があります。
(3) 非居住者
日本国内で生じた所得について、所得税の納税義務があります。
3.外国税額控除
(1) 意義
2.(1)で解説したとおり、非永住者以外の居住者については、国内で生じた所得及び国外で生じた所得のすべてについて日本の所得税が課税されます。したがって、海外不動産の譲渡益について外国の所得税に相当するものが課税される場合には、日本と外国の両方で二重に税金が課税されることになります。
この国際的な二重課税を調整するために、日本の所得税の計算上、一定額を税額から控除する制度が設けられています。これを外国税額控除といいます。(2) 外国税額控除額の計算
外国税額控除額は、次の①と②の額のうちいずれか少ない金額をいいます。
①その年に納付することとなる一定の外国所得税額
②その年分の所得税額×その年分の国外所得総額÷その年分の所得総額
なお、②の算式中の「その年分の所得税の額」とは、配当控除や住宅借入金等特別控除等の税額控除、及び災害減免法による減免税額を適用した後の額をいいます。
②の算式中の「その年分の所得総額」とは、純損失の繰越控除や居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除等の各種繰越控除の適用を受けている場合には、その適用前のその年分の総所得金額、分離長期(短期)譲渡所得の金額(特別控除前の金額)、株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、退職所得金額、及び山林所得金額の合計額をいいます。また、その合計額が「その年分の国外所得総額」に満たない場合には、「その年分の国外所得総額」に相当する金額となります。
②の算式中の「その年分の国外所得総額」とは、その年において生じた国内源泉所得以外の課税対象となる総所得金額、分離長期(短期)譲渡所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、退職所得金額、及び山林所得金額の合計額をいいます。
(3) 外国税額控除を受けるための手続
外国税額控除を受けるためには、不動産を売却した年分の所得税の確定申告書に、控除を受ける金額の記載をし、あわせて「外国税額控除に関する明細書」、外国所得税を課されたことを証する書類、及び国外所得総額の計算に関する明細書などを添付する必要があります。