法律相談

月刊不動産2005年7月号掲載

修繕履歴の説明

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

2年前に大規模な水回りの修繕工事を行ったマンションの一部屋について、売買の仲介を進めています。宅建業者として、修繕工事について、買主に説明する必要があるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 宅建業者は、マンションに修繕工事実施の記録が保管されていれば、買主に対し、修繕工事の実施状況を説明しなければなりません。

     中古マンションの購入者にとって、マンションの維持や修繕がこれまでどのようになされてきたかは、購入を決定するにあたっての重要な判断材料です。
     そこで宅建業法は、宅建業者に対し、「1棟の建物の維持修繕の実施状況」の記録があるときは、その内容を説明しなければならないとして、維持修繕履歴の説明義務を課しています(宅地建物取引業法35条1項5号の2、同法施行規則16条の2第9号)。修繕の履歴が記録されていれば、その内容が重要事項となるわけです。
     ただ、どのマンションにも維持修繕の記録が残されているというわけではありません。記録がなければ説明することはできませんので、宅建業者の説明義務は、維持修繕の実施状況の記録が残されている場合に限って課されます。宅建業者は、管理組合、マンション管理業者又は売主に記録の有無を照会し、記録の存在しないことが確認された場合は、その照会をもって調査義務を果たしたことになります。

     以上から、本件のご質問については、マンションにおいて、1棟の建物の維持修繕の実施状況の記録があるときには、2年前の大規模修繕工事を説明しなければならないけれども、維持修繕の記録がないときには、宅建業法上の説明の義務はない、ということになります。
     ただし、記録が保存されていないために法律上の説明義務がない場合であっても、仲介業務の過程において過去の大規模修繕工事の実施状況を知った場合には、宅建業者としては購入者にこれを説明しておいたほうがよいことはいうまでもありません。

     なお、規則に定められている「建物の維持修繕の実施状況」という言葉は、やや不明確なので、国交省から公表されている「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方について」の中で、「規則第16条の2第9号の維持修繕は、共用部分における大規模修繕、計画修繕を想定しているが、通常の維持修繕や専有部分の維持修繕を排除するものではない。専有部分に係る維持修繕の実施状況の記録が存在する場合は、売買等の対象となる専有部分に係る記録についてのみ説明すれば足りるものとする」として、宅建業者が重要事項として説明すべきかどうかを判断するにあたってのガイドラインを示しています。

     ところでマンションの住み心地や資産価値は管理次第だという考え方が一般化しています。仲介業者としても管理の問題は必ずチェックしておかなければなりません。とりわけ維持や修繕の履歴は、今後老朽化してくるマンションが増加するに伴い、さらに重要性が増してくるものと考えられます。修繕履歴を正確に把握しておくことは、建替えを実施するかとうかを検討するにあたっても必要になります。

     マンションの維持や修繕の履歴への関心の高まりに対応し、国交省においてマンション管理情報の履歴システムの構築が始められ、管理体制や修繕積立金の金額、設計図書の保管状況、修繕箇所、修繕の工事費と施工会社などのデータベース化が計画されています。構築したマンション管理情報データベースは、居住者や管理組合、仲介業者などが閲覧できるシステムとなる予定です。

     また宅建業者は、修繕に関しては、修繕工事の実施状況に加え、「1棟の建物の計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定めがあるときは、その内容及び既に積み立てられている額」を説明しなければならないとされ、毎月支払うべき修繕積立金に関する規約の定め、及び、修繕のためにすでに積み立てられた額の説明が求められていることにも留意が必要です(宅地建物取引業法35条1項5号の2、同法施行規則16条の2第6号)。

     マンションを仲介する場合には、マンションの維持や修繕に関連する事項には、十分に注意を払う必要があります。

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