税務相談

月刊不動産2004年11月号掲載

保証債務の履行に伴う不動産の譲渡

代表社員 税理士 玉越 賢治(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

長男が社長を務める会社が業績不振により債務超過に陥り、金融機関からの借入金を返済できません。金融機関から保証人である私に保証履行するよう催促されていますが、手持資金がないため、相続により取得した土地を売却しようと思います。このような場合でも譲渡所得税の課税を受けるのでしょうか。保証人は、私と長男です。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  資産を譲渡した場合には、原則として譲渡所得税が課税されます。所有期間5年超の不動産を譲渡した場合には、譲渡益に対して原則として20%(所得税15%、地方税5%)の税率が課されます。保証人であるあなたが保証履行のために所有する不動産を譲渡した場合も、原則として同様の課税を受けます。
     しかし、資産を譲渡して譲渡代金で保証履行したとしても、会社に対して求償権を行使できないのであれば、譲渡代金を回収できなかった場合と同様に、その行使できない部分の金額はなかったものとみなされます。「保証債務の譲渡特例」といいます。
     譲渡がなかったものとみなされる金額は、次のうちいずれか低い金額です。

    ①保証債務の履行に伴う求償権の行使不能額

    ②求償権の行使不能がなかったとした場合の、総所得金額、譲渡所得の金額等の合計額

    ③②の金額の計算の基礎とされた譲渡所得の金額
     保証人が数人いる場合において、一人の保証人が自己の負担部分を越えて弁済をしたときは、他の保証人に対して各自の負担部分を求償することができるため、長男に返済能力がある限り、あなたの①の求償権の行使不能額は、保証履行額の2分の1ということになります。
     求償権の全部又は一部が行使不能かどうかは、会社の資産状況、支払能力等を総合的に勘案して判断すべきですが、会社に次の事実が発生した場合には、次に掲げる金額は求償権の行使不能額とされます。

    ①会社更生法、民事再生法の認可決定により切り捨てられる金額

    ②商法の特別清算、破産法による強制和議の認可決定により切り捨てられる金額

    ③私的整理における債権者集会の合理的な基準による協議決定で切り捨てられる金額

    ④私的整理における行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で③に準ずるもの

    ⑤債務者の債務超過状態が相当期間継続し、貸金等の弁済を受けることができない場合において、債務者に対して書面により債務免除した金額
    「保証債務の譲渡特例」は、会社が解散しない限り適用できないのではないかという認識がありますが、代表者等が求償権を放棄することにより会社の再建を目指す場合や、廃業に向かいつつもまだ会社が解散に至らない場合や、廃業に向かいつつもまだ会社が解散に至らない場合であっても、この規定の適用を受けることはできます。例えば、上記⑤については、その会社が求償権の放棄後も存続し、経営を継続している場合でも、次のすべての状況に該当するときは、その求償権は行使不能とされます。

    ①代表者等の求償権を他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難で、求償権を放棄せざるを得ない状況にあること

    ②会社は求償権を放棄(債務免除)することによっても、なお債務超過の状況にあること(求償権の放棄後において、売上増加、債務減少等があっても判定には影響しない)
     会社が債務超過かどうかの判定に当たっては、土地等及び上場有価証券等の評価は時価ベースで行います。また、債務超過は、取引先の倒産等により短期間で相当の債務を負ったような場合も含まれます。
     確定申告時点で求償権の行使不能と判定されない場合でも、その後、求償権が行使不能な状態に陥ったときには、求償権が行使不能となった日の翌日から2ヶ月以内であれば「更正の請求」をすることにより、「保証債務の譲渡特例」の適用を受けることができます。
     なお、「保証債務の譲渡特例」について、借入金により保証債務の履行を行った後に資産を譲渡した場合で、その譲渡が保証債務を履行した日からおおむね1年以内に行われているときは、保証債務を履行するために資産の譲渡があったものとされますので注意が必要です。

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