賃貸相談
月刊不動産2007年1月号掲載
保証人に対する滞納家賃の請求
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
8年前に賃貸借契約を取り交わした借家人が、2年間にわたり家賃を滞納しています。8年前の賃貸借契約書には連帯保証人が署名押印していますので、この保証人に滞納家賃を請求したいのですが可能ですか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.賃貸借の連帯保証と契約の更新
借家人の連帯保証人として賃貸借契約に署名押印した者は、借家人が賃料を滞納した場合には、借家人に代わって滞納賃料を支払う義務があります。
賃貸借契約を取り交わす際には賃貸借期間を定めるのが通常ですので、2年間の賃貸借締約であれば、連帯保証人もその2年間の契約期間中の債務を連帯保証することは当然です。2年後に契約を更新する際に、連帯保証人も更新契約に連帯保証人として署名押印していれば、更新後の契約期間中の賃料滞納についても連帯保証債務を負うことは明らかです。
しかし、連帯保証人が署名押印したのは当初の契約のみで、その後の更新契約については一切関与していないという場合が少なくありません。このように連帯保証人が更新後の賃貸借契約には署名も押印もしていないという場合でも、賃貸人は更新後の滞納賃料を連帯保証人に請求できるのでしょうか。
民法619条2項では、賃借人が担保を提供した場合には、契約期間が満了すると敷金以外の担保は消滅すると定められているため、人的担保である連帯保証債務は期間の満了によって終了してしまうのか否かが問題とされてきました。
この点について、最高裁判所は、期間の定めのある賃貸借契約の保証人は、原則として、更新後の債務についても保証責任を免れることはできないと判示しています(最高裁平成9年11月13日判決) 。
その理由は、借家人のために保証人となろうとする者にとって、契約の更新による借家関係の継続は当然予測できることで、賃貸借の場合には保証の主たる債務は定期的な家賃債務が主たるものであるから、保証人の予期し得ないような保証責任が発生するものではないということにあります。したがって、「反対の趣旨」をうかがわせるような特段の事情のない限り、連帯保証人は更新後の債務も保証する意思で連帯保証人として契約書に調印したものとみるべきことになるわけです。その結果、この最高裁判決の事案では、2 年以上にわたる滞納家賃として総額853万円を超える支払を連帯保証人に命じています。
2.連帯保証人に請求できる滞納家賃の額
上記の最高裁判決の事案は、2年以上にわたる滞納家賃として総額853万円強という高額の支払を保証人に命じていますが、これは保証人が賃借人と兄弟であったという事情が影響しているのではないかといわれています。
これが賃借人とは親族関係のない第三者が連帯保証人であった場合には、結論は異なることも考えられないではありません。特に、連帯保証人からすれば、これほど多額の滞納賃料が生じたのは賃貸人が不払いを放置してきたことに責任があるのであって、賃貸人の怠慢の責任をすべて連帯保証人に請求することは認められるべきではないとの主張が考えられます。
賃貸人としては、このようなケースでは連帯保証人に対して滞納家賃を請求できる範囲が限定されるということも考えておく必要があると思われます。
3.滞納家賃の管理と連帯保証人への請求
(1) 賃貸借契約書のチェックポイント
上記の判例等からすると、賃貸借契約においては、反対の趣旨がうかがわれない限りは、当初の賃貸借契約に連帯保証人が署名押印していれば更新後の債務についても保証責任があると認められます。したがって、この点で賃貸人として留意すべきことは、賃貸借契約に「反対の趣旨」が記載されているか否かということのチェックです。すなわち賃貸借契約書の中に、例えば「連帯保証人は本契約期間中のみ保証責任を負うものとする。」などという文言がないか否かをチェックしておくことが重要です。
(2) 保証人への請求のポイント
また賃貸人としては、家賃の滞納が生じた場合には、速やかに連帯保証人に対して家賃の滞納が生じている事実を伝え、その善処方を早期に求めることが最も重要だということになります。そうすることにより、不必要な滞納賃料の拡大を防ぎ、同時に連帯保証人への請求の確実性を増すことにもつながるからです。