賃貸相談
月刊不動産2009年2月号掲載
保証人との契約の仕方
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
アパートの賃貸借契約を締結するに当たり、保証人を立ててもらおうと思いますが、保証人とはどのような契約をしておけばよいのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.保証人
保証人とは、特定の債務を履行すべき債務者(これを「主債務者」といいます)が債務を履行しなかった場合に、主債務者に代わって債務を履行する義務を負担することを、債権者との間で契約(これを「保証契約」といいます)する者をいいます。
アパート賃貸借契約の場合は、主債務者とは賃料支払債務を負っている借家人、債権者は賃料債権を有する賃貸人ということになります。
(1) 催告の抗弁権
保証契約をする場合には、通常の保証契約と連体保証契約の2種類があるということに注意する必要があります。保証契約においては、本来の債務者は主債務者ですから、主債務者が支払をしない場合に主債務者に代わって支払をするのが保証人の役割ですので、通常の保証契約では、債権者が主債務者に請求することなく、いきなり保証人に請求してきた場合には、まず主債務者に請求するように求めることができます。これを「催告の抗弁権」といいます。(2) 検索の抗弁権
通常の保証人は、債権者が主債務者に請求した後であっても、主債務者に弁済の資力があり、取立ても容易であることを立証した場合には、債権者に対して、まず主債務者の財産に執行することを求めることができます。これを「検索の抗弁権」といいます。判例では、検索の抗弁権を主張するためには主債務者に執行容易な若干の財産が存在することを証明すれば足り、これによって得られる弁済が債権の全額に及ぶことの証明は要しないものとされています。したがって、アパートの賃貸借の保証人が検索の抗弁権を有するときは、借家人に未払賃料の一部を弁済できる財産があることが立証されると、保証人から一括して未払賃料の弁済を受けられる場合でも、借家人に対して執行した後でなければ保証人には請求できません。
これでは、アパート賃貸借のために保証人を設けた意義が薄らいでしまいます。このため、アパートの賃貸借の保証契約では、催告の抗弁権も検索の抗弁権も認められない類型の保証契約を締結することが望まれます。それが連帯保証契約です。
2.連帯保証契約
連帯保証契約は、保証人が主債務者と連帯して債務を負担することを約束するもので、連帯保証人は通常保証人が有している催告の抗弁権と検索の抗弁権を有しないものとされています(民法454条)。したがって、アパートの保証人契約は、必ず連帯保証契約としておくことが必要です。連帯保証契約は、賃貸人と借家人との間で締結する建物賃貸借契約に連帯保証人が連帯保証する旨の文言とともに署名又は記名押印するほうが好ましいといえます。これは連帯保証人が保証の対象となる賃貸借契約の内容を十分に認識していることを担保するためです。
3.連帯保証契約の内容
(1) 連帯保証文言
一般的には、賃貸借契約に連帯保証契約条項として、「本賃貸借契約に基づき、乙(借家人)が甲(賃貸人)に対して負担する賃料支払債務、原状回復債務、損害賠償債務その他一切の債務につき、乙と連帯して保証する」という内容の文言を規定します。(2) 更新後の保証
連帯保証人は、最初に締結する建物賃貸借契約には押印しますが、更新後の建物賃貸借契約の際に連帯保証人が押印することはまれだと思います。判例では、連帯保証人は更新後の賃貸借契約における未払賃料等についても連帯保証責任を負うものとされていますが、紛争を生ずることのないよう、更新後の債務についても責任を負う旨を明記するのも1つの方法です。(3) 原状回復の履行
主債務者が原状回復を行うことなく行方不明になった場合に、連帯保証人が主債務者の残置した荷物を処分することがありますが、法的には連帯保証人にはそのような権限がありません。そのような場合に備えて、賃貸借契約書の中に、借家人は、連帯保証人に残置物の搬出・保管・処分につき代理権を授権する旨を記載することでスムーズに解決できる場合があります。