賃貸相談

月刊不動産2008年2月号掲載

保証人からの敷金控除請求

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

滞納家賃を連帯保証人に請求したところ、連帯保証人は敷金から未払家賃を控除して残額があれば支払うと言っています。どうすればよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 敷金の法的性質と未払賃料の充当の可否

    (1) 敷金の法的性質

     建物賃貸借契約における敷金とは、賃借人から賃貸人に対して預託される金銭で、「未払賃料や賃貸借終了後建物明渡義務の履行までの間に生ずる賃料相当額の損害金その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するものであり、敷金返還請求権は、賃貸借終了後、建物明渡しがなされた時において、それまでに生じた上記一切の被担保債権を控除してなお残額がある場合に、その残額についてのみ発生する。」ものと解されています(最高裁昭和 49年9月2日判決)。

    (2) 敷金の法的性質からする結論

     ①賃貸借期間中は敷金返還請求権は不発生

     上記の敷金の法的性質からすると、敷金は賃貸借が終了して建物明渡しが完了した時点で初めて返還すべき金額が残っているか否かが確定するものですから、賃貸借契約期間中は賃借人には敷金返還請求権は認められません。

     ②賃貸借期間中は未払賃料と敷金との相殺は不可賃借人は賃貸借期間中は敷金返還請求権が認められないのですから、賃借人が賃料を滞納した場合に、敷金を預託しているのだから滞納賃料は敷金から差し引いておいてほしいという要求は認められません。

     ③敷金が十分預託されていても契約解除は可能

     判例では、賃借人が賃料を滞納し賃料不払を理由に契約を解除する際に、滞納賃料額を超える敷金が預託されていたとしても信頼関係を破壊していないとはいえず、契約の解除は有効であるとされています。

     ④賃貸人の側からの敷金充当は可能

     上記のとおり、賃借人側から滞納賃料を敷金から差し引いてほしいと要求することはできませんが、賃貸人の側から滞納賃料を敷金に充当することは自由に行うことができます。ただし、その場合には敷金額が減少することになりますが、当然に不足額の補填(ほてん)を請求できるか否かについては争いを生ずる余地がありますので、賃貸借契約書に未払賃料等を敷金から控除した場合には一定の期限内に不足額の補填義務があることを明記しておくことが必要です。

    2. 未払賃料と保証人からの敷金充当請求

     上記のとおり、敷金の法的性質からすると、賃料を滞納した場合に賃借人の側から「未払賃料を敷金から充当しておいてほしい」と要求することができないことは明らかです。

     問題は、賃貸借契約の保証人ないしは連帯保証人等の保証人がいる場合に、保証人の側は、まず敷金から控除してその残額がある場合にのみ保証責任を負担するという主張はできないのかということです。

     これには連帯保証人に対しては、敷金から控除する必要はないが、通常の保証人が、まず敷金からの控除を請求した場合には敷金からの控除をしなければならないという考え方と、賃貸人は、通常の保証人と連帯保証人のいずれに対しても敷金から控除することなく請求できるとする考え方があります。

     通常の保証人と連帯保証人との相違は、通常の保証人には「催告の抗弁」と「検索の抗弁」が認められますが連帯保証人にはいずれも認められない点です。催告の抗弁とは、債権者が保証人に請求した場合に、保証人がその前に主たる債務者に催告せよと請求することができること、検索の抗弁とは、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、執行が容易であることを証明したときは、債権者はまず「主たる債務者の財産」について執行しなければならないことをいいます。

     敷金が「主たる債務者の財産」に該当するのであれば、保証人はまず敷金から賃料を差し引けと請求することができるとする見解があります。敷金が「主たる債務者の財産」に該当するかどうかは疑問ですし、そもそも滞納賃料を敷金から控除するか否かは専ら賃貸人の権利なのですから、通常の保証人であっても催告の抗弁として敷金充当を主張することはできないのではないかと思われますが、この点に関しては見解に相違がありますので、保証人を求めるときは、必ず連帯保証人とすべきものと考えられます。

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