法律相談

月刊不動産2002年11月号掲載

依頼者から亡父の実家にある土地の売却の話があります。

弁護士 草薙 一郎()


Q

依頼者から亡父の実家にある土地の売却の話があります。亡父の実家は遠方にあるため、依頼者も長年、現地に行ったことがなかったそうですが、最近、現地調査したところ、隣人が土地を資材置場として使用しているようです。時効の問題がありそうですが、どうでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 【A】
     確かに時効の問題がありそうです。
     ただ、時効といっても、隣人がどのような目的で依頼者側の土地を使用していたかが問題です。
     もし、亡父から借りている意思があって使用していたのであれば、賃借権の時効取得の問題は生じても、所有権を隣人が時効取得することはありません。
     そのためには所有の意思を有して使用していることが必要です。
     したがって、隣人がどのような目的を有して土地を使用していたかの確認をして下さい。
     もちろん、亡父の同意を得て土地を使用していたとすれば、土地を正当な権限にもとづいて使用しており、依頼者の方は、この亡父の地位を承継しているのですから、時効の問題にはなりません。
     
    【Q】
     隣人が勝手に使用していたとし、かつ、所有の意思があったときは所有権の時効取得の問題が生じるわけですね。

    【A】
     そうです。
     ただ、時効といっても、時効取得者側が時効を援用することが必要です。単に時効完成に必要な期間が経過したからといっても、それだけで時効になるわけではありません。
     時効の期間ですが、占有を開始してから10年又は20年です。10年というのは、占有開始のときに善意、無過失という要件を満たしたときに認められますが、無過失というケースはあまり認められないようです。

    【Q】
     ところで、時効完成前に土地を売却することは可能でしょうか。

    【A】
     もちろん可能です。
     判例によると、時効期間の進行中に対象不動産が売却されたときは、その後、時効が完成すれば時効取得者は買主に時効の登記なしに対抗できるとされています。
     しかし、時効期間完成後に対象不動産を購入した者は、時効を主張する者に対して当然に対抗できるのではなく、時効取得者又は買主において、先に登記した方が優先するとしています。
     したがって、本件の土地について時効期間が完成しているときには、売買契約のあと、急いで移転登記をしないと買主が所有権を取得できないというケースも予想されることになります。

    【Q】
     そうすると、時効進行中の方が買主には不利ですね。

    【A】
     そうです。そこで、時効の起算点、つまり占有の開始日をいつにするのかを任意に選択できるとすると、問題が生じてしまいます。
     例えば、20年の時効期間として、占有開始日から20年は経過しているのに、15年前の日を開始日と言えるとすれば、買主は時効取得者に優先されてしまうことになるわけです。
     そこで、裁判所は時効の起算点を任意に選択することはできないとしています。

    【Q】
     ところで、今度は時効取得者側に立っての相続ですが、時効取得する土地の所有者の所在が不明なときはどうしたらよいでしょうか。

    【A】
     登記名義人の所在が不明なときは、公示送達による訴えを提起して、判決による時効取得を原因とする登記をして下さい。この場合、相手方の所在不明を明らかにする必要があり、弁護士の方に訴訟手続を依頼された方が妥当と考えます。

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