法律相談
月刊不動産2013年2月号掲載
住居専用マンションの事務所使用
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
住居専用マンションの居室を、税理士事務所の用途に使用している区分所有者がいます。 管理組合として、税理士事務所の使用をやめるように請求することができるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.回答
税理士事務所としての使用をやめるように請求することができます
2.管理規約による使用目的
さて、マンションの区分所有権も所有権であり、区分所有者は専有部分を、自由に使用・収益・処分をすることができますから(民法206 条)、本来、専有部分はそれぞれの区分所有者が、いかなる用途にも自由に使用することができるのが原則です。
しかし、マンションには、一つの建物をたくさんの人が利用するという特性があります。区分所有者間の調整に必要とされる限り、専有部分の使用は様々な制限を受けざるを得ません。
区分所有者が居住を目的として所有・使用しているマンションの場合には、住居以外の用途に用いられる専有部分があると、多数の住民の平穏な生活を確保することはできません。
そのため、管理規約において「その専有部分を専ら住宅として使用する」(住居専用)という用途制限が明確にされるのが、一般的です。
3.東京高裁平成23年11月24日判決
東京都世田谷区の比較的閑静な住宅地にある居住用マンション(昭和44 年建築)の一室が、区分所有者Yによって税理士事務所に利用されていたため、X 管理組合が税理士事務所の使用禁止を求めて訴えを提起した事案がありました。建築当時の管理規約には住居専用規定は設けられていませんでしたが、昭和58 年5 月、住居専用とする定めを設ける規約改正が行われています。この管理規約によれば、1 階部分を除き、区分所有者はその専有部分を専ら住宅として使用し、他の用途に供してはならないとされています。
原審の東京地裁は、X 管理組合の請求を否定しましたが(東京地裁平成23 年3 月31 日判決)、控訴審の東京高裁は、次のとおり判示して原審の判断を覆し、管理組合の請求を肯定しました(東京高裁平成23 年11 月24日判決)。
(1)住居専用規定の規範性について
Y は、住居専用規定を設けた後も多くの居室が住居以外の目的で使用されており、これまでX 管理組合が住居以外に使用している区分所有者に対して使用の停止を求めたことはなく、住居専用規定は制定当時から空文として扱われてきたもので、規範性がないと主張する。
しかし、昭和58 年に住居専用規定が設けられた当時、本件マンションの2 階以上の階において、皮膚科医院及び歯科医院として使用されていた区分所有建物が各1戸あったが、いずれも遅くとも平成6 年ころまでに業務を廃止し、住居として使用されるに至っている。
住居専用規定が設けられて以降、X 管理組合は、新たに本件マンションの区分所有権を取得した者に対し、管理規約の写しを交付してその周知を図り、住居専用規定に反すると考えられる使用方法がある場合には、住居専用規定に反する使用方法とならないよう努め、Y が税理士事務所としての使用を継続して、住居専用規定の効力を争っているのを除き、順次住居専用規定に沿った使用方法になるよう使用方法が変化してきているのであり、住居専用規定がY 主張のように規範性を欠如しているものとは認めがたい。
(2)共同の利益に反しないかどうかについて
Y は、本件建物部分を税理士事務所として使用していることが区分所有法57 条にいう「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとはいえないと主張する。
しかし、住居専用規定は、本件マンションの2 階以上において、住居としての環境を確保するための規定であり、2 階以上の専有部分を税理士事務所として営業のために使用することは共同の利益に反するものと認められる。Y の上記主張は理由がない。
(3)禁反言の法理・クリーンハンドの原則について
Y は、X 管理組合自らが規約を遵守、尊重していないにもかかわらず、Y に対して住居専用規定の遵守を求めることは禁反言の法理、ないし、クリーンハンドの原則に反して許されないと主張するが、X 管理組合が規約を遵守または尊重していないと認めるに足りる証拠はないから、Y の主張は理由がない。
4.まとめ
住居用マンションにおいて、居室が事務所として使用されている例もまれにみられますが、トラブルの原因になりかねません。仲介業務や管理業務に不動産業者が関与する場合には、マンション全体の居室の利用状況を把握しておく必要があります。