法律相談
月刊不動産2024年12月号掲載
休眠担保権の抹消
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
父親から相続した土地の売却を考えていますが、土地の登記簿に、30年以上前に解散した法人の担保権が残されたままになっています。担保権を抹消するためには、どうすればよいでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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30年以上前に解散した法人の担保権に関する登記については、不動産登記法上、法人の清算人の所在が判明せず、かつ被担保債権の弁済期から30年が経過していれば、簡易な方法によって担保権の抹消登記手続きをすることが認められます。ご質問のケースでは、法人の清算人が所在不明であるなどの要件を満たせば、簡易な方法による担保権の抹消登記を行うことができます。
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休眠担保権
相続した不動産に、登記上古い時代の担保権が、抹消されずにそのまま残されている場合があります。古い時代の担保権であって、抹消されずに登記に残されているものを、休眠担保権といいます。不動産を売却しようとしても、通常の不動産取引では、売主は担保権の登記を抹消したうえで、買主に所有権移転登記をして、引渡しを行う義務を負いますから、実際上、休眠担保権を抹消しなければ、不動産を売却することができません。
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休眠担保権の抹消方法
休眠担保権の抹消方法としては、図表の①~⑥の6つの方法があります。
まず、本来、登記手続きは共同申請で行うべきなので、①が原則的な方法です。担保権者(登記義務者)の協力を得られず、共同申請ができない場合には、②の方法により、訴えを提起し、意思表示を擬制する確定判決を取得して、単独申請によって登記手続きを行います。もっとも、担保権者の所在が判明していないと訴えを提起することもできませんから、①と②は、担保権者の所在が判明している場合の登記手続きとなります。
担保権者が所在不明の場合の抹消登記は、③~⑥のいずれかの方法によります。
しかしこのうち、③の除権決定(非訟事件手続法106条)は、被担保債権が実体上不存在か、または消滅していることを立証できる場合の手続きであり、④は、弁済証書等所定の書類が手に入る場合の手続きです。休眠担保権が残っている場面は、抵当権設定から長期間が経過していますから、多くの場合、弁済証書等の所定の書類はなく、権利の不存在や消滅を立証するための証拠も残っていません。そのためほとんどの場合に、③と④の方法を採用することはできません。そこで⑤の供託が多く用いられます。ただ休眠登記の抹消登記をするための供託には、登記に記載される被担保債権額・利息・損害金の合計額に相当する金銭を供託しなければならないので、弁済期から長期間経過していることから多額の供託金が必要になります。⑤の供託をする方法も必ずしも容易ではありません。 -
解散した法人の担保権に関する 登記の抹消
これに対して、⑥は、不動産登記法改正によって新たに創設され、2023(令和5)年4月に施行された制度です。担保権者が法人であれば、(1)法人が解散しており、かつ法人の解散の日から30年以上経過し、(2)所定の調査を行っても法人の清算人の所在が判明しない、(3)被担保債権の弁済期から30年以上経過している、という3つの要件を満たす場合には、単独で登記の抹消を申請することができるものとされています( 不動産登記法7 0条の2 )。この制度を利用できる場合には、被担保債権に関する証拠も、供託金も必要がありません。休眠担保権の存在により売買が困難だった不動産について、比較的容易に売買をすることができるようになります。
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まとめ
宅建業者には、安全な取引のために尽力する使命があります。登記手続きを行うことは司法書士の業務ですが、買主が不測の損害を受けないようにするために、登記上の担保権をどのようにして抹消するかを考えることは宅建業者の役割です。休眠担保権の取扱いについても、売買を行おうとする当事者に的確なアドバイスができるように、万全の知識を取得しておかなければなりません。