法律相談
月刊不動産2003年4月号掲載
仮差押、仮処分の登記のある土地の売買にあたり、注意すべき点を教えて下さい。
弁護士 草薙 一郎()
Q
仮差押、仮処分の登記のある土地の売買にあたり、注意すべき点を教えて下さい。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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【Q】
仮差押、仮処分の登記のある土地の売買にあたり、注意すべき点を教えて下さい。【A】
仮差押、仮処分のことを総論して保全処分と呼んでいます。
この保全処分は裁判を提起する前に、相手方の財産を保全する制度です。
たとえば、AがBに貸付金を有しているときは、AはBに裁判を提起して判決を得ます。その判決が確定してから強制執行となるわけですが、この間、AはBの財産に手を出すことはできません。したがって、Bが財産を処分してしまうのを、この間は防止できないわけです。
そこで、強制執行に実効性を持たせるために、裁判の提起前に相手方の財産を保全するのが、この保全処分で、裁判所の命令によります。
そして、前述のような金銭債権を保全するための保全処分が仮差押であり、それ以外の物の引渡しなどの請求権を保全するのが仮処分です。
仮処分の例としては、AがBに土地を売却し、BはAに代金を支払ったのに、AがBに登記を移転しないようなときに、Bは対象の土地に対して仮処分の申立てをし、その土地の甲区欄に処分を禁止する旨の仮処分の登記をつけることになります。
以上のことから、土地や建物に仮差押登記がついていても、その土地建物自体の問題とは限らず、単に金銭上のトラブルであると推測できますが、仮処分のケースでは、その登記のついた土地建物自体についての金銭面以外のトラブルが生じていることが推測できるわけです。
したがって、仮差押のついた土地であれば、仮差押債権者は金銭の回収ができればいいのですから、その土地に売買が成立する可能性もあるわけです。
しかし、仮処分のケースでは、まさに、その登記された土地建物自体のトラブルですので、仮処分債権者にお金を支払えばトラブルが解決するわけではなく、その意味で売買にはあまり適当とは言えない物件ということになります。【Q】
売買になるときの注意点は何でしょうか。【A】
仮差押、仮処分の登記がついていても売買契約自体は可能です。しかし、これらの登記がついたままの売買は実際にはないでしょう。
売買にあたっては、これらの登記の抹消が必要となるでしょう。
その手続きですが、所有権移転登記などは一般のケースと同様に法務局に手続きをすれば可能です。
しかし、仮差押等の保全処分の登記はそれだけでは抹消されません。
これを抹消するためには、保全処分を申立てた債権者による保全処分の取下げを裁判所に対して行なう必要があり、この取下げがなされると、裁判所の嘱託で法務局において保全処分の登記の抹消がなされることになります。つまり、その抹消は所有権移転登記により、あとになるケースが一般的です。
したがって、売買にあたっては、移転登記などの委任を司法書士にした後に、保全処分の債権者に保全処分の取下げを直ちに裁判所に対して行なってもらう必要があります。一般的には売買代金を債権者に支払うケースが多いので、取引の場に来てもらい、保全処分の取下書を買主側で受領し、直ちに裁判所に提出することになります。このケースで注意すべきは、保全処分の取下書が完全であるか否かということになりますので、できれば弁護士などに立合ってもらった方がいいと思います。また、保全処分が代理人によって申立てられているときは、その人が代理人として取下げることが多いですが、代理人だからといって、当然に保全処分の取下げ代理権まであるとは限りませんので、代理権の範囲にも注意して下さい。