税務相談
月刊不動産2014年1月号掲載
付近の宅地に比べて著しく高低差のある宅地の評価
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
個人が所有している宅地が道路より低い位置にあり、付近の宅地に比べて著しく高低差のある場合における、その宅地の相続税評価について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 利用価値が著しく低下している宅地の評価
(1)概要
相続税や贈与税の計算上、次の①~④のように、その利用価値が付近にあるほかの宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められる宅地の価額は、その宅地について利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額に10%を乗じて計算した金額を控除した価額によって評価することができます。
①道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの
②地盤に甚だしい凹凸のある宅地
③震動の甚だしい宅地
④①から③までの宅地以外の宅地で、騒音、一定の日照阻害、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの
(2)評価減が認められない場合
前述(1)の利用価値が著しく低下している宅地について、その相続税評価の基となる路線価または倍率を利用価値が著しく低下している状況を考慮して付されている場合には、(1)の取扱いは認められません。
2. 付近の宅地に比べて著しく高低差のある宅地の相続税評価
(1)10%評価減が認められる場合の留意点
前述1(1)①より、道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるものの相続税評価においては、10%相当額の減額(以下「10%評価減」といいます)の適用が認められる可能性があります。この場合、10%評価減の適用の可否を判断するポイントとしては次の2点があります。
①その宅地の利用価値がほかの宅地からみて著しく低下しているかどうか
10%評価減が認められる理由は、道路との高低差により利用価値が著しく低下している部分を有する宅地については、10%の評価上の斟酌を行おうという趣旨によるものです。したがって、10%評価減は道路との高低差がある宅地であればすべて対象となるというものではありません。あくまでも周辺の地勢による標準的な道路との位置関係等から判断して、評価対象の宅地が付近の一般的な宅地の利用のされ方に比べ著しく利用価値が低下し、経済的価値も低い状況にあることが必要です。
②利用価値の著しく低下している状況が路線価等に織り込まれていないか
前述①の利用価値が著しく低下している宅地であっても、その相続税評価の基となる路線価または倍率を利用価値が著しく低下している状況を考慮して付されている場合には、10%評価減は認められません。
(2)裁決事例からみた10%評価減の適用の可否
前述(1)①と②のポイントを満たしていないことから、国税不服審判所が10%評価減を認めない裁決を下した事例(平成24 年5 月8 日)があり、実務の参考になります。
この事例において争点となったのは、南東から北西にかけて傾斜する地勢の3 筆の宅地であり、道路に面した部分は、駐車場スペースとなっていましたが、共同住宅の敷地として利用されているところは高低差があり、およそ2.9 mから3.6 m道路より高い位置で利用されていました。
この宅地を相続財産とする相続税の計算上、請求人である相続人は10%評価減が適用可能と考え、相続税の申告後、更正の請求で相続税の減額を求めましたが、当局に認められず、国税不服審判所に対する審査請求に至ったものです。
国税不服審判所は、問題の土地の前面道路につけられた路線価の設定区間のほかの土地34 件について事情を調べたところ、「23 件は(中略)高低差が認められ、うち21 件については1 メートル以上2.5 m未満の高低差が認められる」として、問題の土地は「『その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの』には該当するとは認められない」と判断しました。
また、国税不服審判所は10%評価減の評価方法の適否について、「単に、ある宅地と付近にある宅地との高低差があることのみをもってこれを判断するという解釈を採れば、例えば当該宅地の日当たり、風通し、水はけおよび眺望を良くする目的で盛土をした場合など、その利用価値が(中略)必ずしも低下要因とはならない高低差がある場合でも、容易に減額を受けられることとなり、(中略)評価方法の趣旨とは相いれない」として、請求人の請求を退けています。