法律相談
月刊不動産2009年5月号掲載
中古建物設計施工責任
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
中古建物の設計者や施工業者の責任に関する平成19 年7月最高裁判決について、差戻審の判決が出たと聞きました。どのような内容なのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
1.中古建物の購入者が、設計者や施工会社に対して責任を追及できるのは、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵がある場合に限られるとし、最高裁の示した基準に絞りをかけました。
2.さて、平成19年7月最高裁判決は、Y1が設計・工事監理、Y2が工事の施工をした9階建て建物について、これを中古建物として購入したXが、Y1とY2に対し、ひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があることを理由として、損害賠償を求めた事案です。最高裁は、「建物は、建物利用者や隣人、通行人等(居住者等)の生命、身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである。そうすると、建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者(設計・施工者等)は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。
そして、設計・施工者等がこの義務を怠ったために、建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が瑕疵の存在を知りながらこれを前提として建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。居住者等が建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない」と判断しました。この最高裁判決は、設計者や施工業者の責任を広く認めたものとして、強い関心が集まりました(最高裁平成19年7月6日判決)。
3.この最高裁判決が、福岡高裁に差し戻されていましたが、このたび、差戻し後の高裁判決があり、再び、注目すべき判断が下されています(福岡高裁平成21年2月6日判決)。
福岡高裁は、まず、最高裁の示した「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の解釈について、「上告審(最高裁)は、建物は、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである旨判示し、さらに、例示として、バルコニーの手すりの瑕疵であっても、これにより居住者等が通常の使用をしている際に転落するという、生命又は身体を危険にさらすようなものもあり得る旨判示している。
このような上告審の判示からすると、『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』とは、建物の瑕疵の中でも、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものと解され、建物の一部の剥落や崩落による事故が生じるおそれがある場合などに、『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』が存するものと解される」として、設計者、施工会社に対し責任を追及し得る瑕疵について、現実的な危険性という要件で絞るという考え方を採用しました。
さらに続けて、「Xは、『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』について、建築基準法やその関連法令に違反する瑕疵をいうと主張する。
しかし、建築基準法やその関連法令は、行政庁と建物の建築主や設計・施工者等との関係を規律する取締法規であり、これに違反したからといって、それだけでは直ちに私法上の義務違反があるともみられない。また、ささいな瑕疵について、設計・施工者等が第三者から不法行為責任の追及を受けるというのも不合理であるから、Xの主張は採用できない」と判断しました。
その上で、Xの購入した建物には、これまでに剥落などの事故はなく、現実的な危険性は生じていないとして、「本件においては、本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害されたものということはできないから、Y1らの不法行為責任は認められない」として、Xの請求を棄却しました。
4.業者は、中古建物の流通業務に携わる以上、中古建物の瑕疵に関する最新の裁判例とその社会的影響について、正確に把握しておく必要があります。