税務相談

月刊不動産2004年7月号掲載

不動産M&A

代表社員 税理士 玉越 賢治(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

不動産売買に際し、「不動産M&Aによった方が有利だ。」と聞くことがあります。その概要と売主・買主双方のメリット、注意すべき点を教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  法人所有の不動産をその法人の株式売買によって売主から買主に移動させることです。法人の事業取得を目的として株式売買が行われる一般のM&Aと異なり、買主はあくまでその法人が所有している不動産の取得が目的ですから、「不動産M&A」と呼ばれています。
     法人の含み益ある不動産を譲渡する場合、譲渡益に対して法人税・住民税・事業税が課税されます。含み損のある不動産を所有していれば、それを先行して譲渡するか同一事業年度で譲渡して譲渡損を実現させれば、譲渡損益が通算されて法人税等を軽減されることができます。また、譲渡益が計上される年度において、役員退職金の支払や固定資産除却損の計上など譲渡益に見合う損金を計上することができる場合も、同様に法人税等を軽減させることができます。
     しかし、譲渡益が譲渡損を上回る、譲渡益に見合う損金の計上ができないような場合には、40%強の法人税等の負担を強いられます。商業系の建物譲渡は、消費税も負担を強いられます。商業系の建物譲渡は、消費税も課税されます。更にそれを株主の手元に還元したいときには株主配当するか株主が役員の場合に役員退職金を支払うことになりますが、いずれにしても最高税率50%の所得税等の負担を生じ、株主の手取額は不動産売却額の3割前後にしかなりません。
     不動産を譲渡してしまえばその法人は実態を失うようなケース、不動産譲渡に際して法人の事業廃業を予定しているケース、法人の事業を別会社に営業譲渡してその法人の資産を不動産だけにすることができるケース等においては、法人ごと不動産を譲渡(すなわち法人の株式譲渡)した方がオーナーの手取額が多くなります。法人税等の課税はなく、消費税も非課税です。株式の譲渡に対する所得税等は譲渡益は20%の申告分離課税で済むため、個人株主の手取額は株式譲渡価額の80%にものぼります。したがって、個人株主にとっては、法人が所有不動産を譲渡してそれを株主に還元するよりも、その法人の株式を譲渡する方が有利だということになります。
     では、買主にとってのメリットは何でしょうか。
     「不動産M&A」は株式取得なので、不動産取得にかかる登録免許税・不動産取得税がかかりまぜん。また、不動産売買契約書は印紙税の課税文書ですが、株式売買契約は非課税文書です。

    (取得税比較表)
     

     不動産M&A後、株式の買主はその買収対象会社の親会社となり、その買収対象会社は子会社株式として資産計上され、不動産は子会社所有の不動産ということになります。
     この子会社所有の不動産を売却しようとすると、上記で説明したのと同様に子会社の不動産譲渡益として子会社において法人税等の課税を受けることになりますが、子会社を解散して不動産を譲渡すると、買主法人(親会社)において、みなし配当と株式譲渡損が発生します。
     みない配当は、残余財産分配額のうち資本等の金額(資本金+資本積立金)を越える部分の金額のことで、子会社の利益積立金からなる部分の金額です。子会社の発行済株式総数の25%以上を6ヶ月以上引続き所有している株式等に対する配当は金額益金不算入となります。いっぽう、子会社株式取得価額と子会社の資本等の金額との差額は、子会社株式整理損として損金になります。買主のタックス・プランニング上考慮しておく必要があります。

    (図)
     

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