税務相談
月刊不動産2004年4月号掲載
不動産譲渡損失の損益通算廃止の影響と対策
代表社員 税理士 玉越 賢治(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
平成16年分から不動産の譲渡損失は、損益通算することも繰越控除することもできなくなったと聞きましたが、その概要と対策を教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
平成16年度の税制改正において土地等・建物等の譲渡に際して生じた損失の金額は生じなかったものとみなし、他の所得との損益通算が認められなくなりました。また、青色申告を選択していても、その損失額を翌年以降に繰り延べることもできなくなりました。平成16年1月1日以後の譲渡にさかのぼって適用されます。
所有期間5年超の不動産の長期譲渡所得と所有期間5年以下の不動産の短期譲渡所得との同じ分離課税となる不動産の譲渡所得グループ内での損益の相殺(内部通算)は可能ですが、他の総合課税の対象となる資産(例えばゴルフ会員権)の譲渡益との相殺や、事業所得、不動産所得、給与所得等の他の所得との損益通算はできないのです。
したがって、今年以降、不動産の譲渡により損失が生じても、その損失は切り捨てになり、確定申告によって給与所得等で源泉徴収された税金の還付を受けたり、事業所得や不動産所得の黒字と相殺してこれらの所得に対して計算される所得税額の軽減を図ることができなくなりました。
このような改正に対して、今後どのような対応が可能か探ってみましょう。1.居住用財産の特例
居住用財産の譲渡については特例があり、その譲渡損失については損益通算及び繰越控除することができます。この場合において、繰越控除は、青色申告の有無を問わず適用することができます。
(1)居住用財産の買換えに伴う譲渡損失の特例
(譲渡年が3年延長され、譲渡資産に係る住宅借入金要件が撤廃されました。)①所有期間5年超の居住用財産の譲渡損失であること
②平成18年12月31日までの譲渡であること
③配偶者、直系血族、生計同一親族等の特殊関係者に対する譲渡でないこと
④居住用財産譲渡年の前年、譲渡年、翌年中に自己の居住用財産を買換資産として取得し、取得年の翌年12月31日までに自己の居住用に供すること
⑤買換資産は、住宅借入金を利用して取得すること
⑥損益通算で控除しきれなかった譲渡損失額は、翌年以降3年間繰越控除できます
⑦繰越控除を受ける年分の合計所得金額は3,000万円以下であること
(2)特定居住用財産の譲渡損失の特例
(新設、(1)の①~③、⑦の要件は同じ)
①譲渡資産に係る住宅借入金等の残高があること
②損益通算で控除しきれなかった譲渡資産に係る譲渡損失額は、翌年以降3年間繰越控除できます
③繰越控除できる譲渡資産に係る譲渡損失額とは、譲渡資産に係る住宅借入金等の残高-譲渡資産の譲渡対価の額を限度とし、損益通算してもなお控除しきれない部分の金額のことです
2.相続時精算課税制度の利用
相続時精算課税制度の概要は次のとおりです。
①65歳以上の親から20歳以上の子である推定相続人(代襲相続人を含む。)に対する贈与であること
②贈与税額は、特別控除額2,500万円超の部分に対して一律20%の税率を乗じて計算する
③相続財産に上記特定贈与財産の贈与時の評価額を加算して相続税額を計算し、納付済の相続時精算課税に係る贈与税額を控除して、納付すべき相続税額を計算する
④住宅取得資金等の贈与を受ける場合には、平成17年12月31日までの贈与に限り、上記①の65歳要件は適用されず、特別控除額は1,000万円上積みされる
上記制度を活用して、親が子供に含み益のある不動産(先祖から相続した土地、バブル前に取得した土地等)を贈与し、子供はその受贈不動産と自身の所有する含み損のある不動産を同一年に譲渡します。贈与の場合、贈与者の取得時期と取得価額を引き継ぎますから、子供は自身の不動産の売却損を親から引き継いだ含み益のある不動産の実現益と相殺することができます。