税務相談
月刊不動産2004年10月号掲載
不動産の現物出資(法人編)
代表社員 税理士 玉越 賢治(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
8月号では、現物出資を受ける法人の取扱いと、現物出資する者が主に個人の場合の取扱いについて説明を受けました。今回は現物出資する者が法人である場合の取扱いを教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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現物出資とは、金銭以外の財産をもってする出資で、法人新設時に発起人が行う現物出資と、既存会社の増資に際して新株引受人が行う現物出資とがあります。8月号で主に個人が現物出資を行う場合について解説しましたが、今回は法人が現物出資を行う場合について
説明します。
現物出資が行われた場合、法人税法では、現物出資する法人(現物出資法人)は、資産・負債を時価により現物出資を受ける法人(被現物出資法人)に譲渡したものとして取り扱います。したがって、時価と帳簿価額との差額が譲渡損益として益金(利益)又は損金(損失)として課税を受けることになります。
しかし、その現物出資が法人税法で規定する「適格現物出資」の要件に該当する場合には、現物出資法人はその資産・負債を現物出資直前の帳簿価額で被現物出資法人に譲渡したものとしてその譲渡損益を繰り延べることになります。すなわち、法人税法上、帳簿価額=時価と取り扱うため譲渡損益は発生しないのです。また、被現物出資法人は、現物出資資産等を現物出資法人の帳簿価額で引き継ぎます。したがって、被現物出資法人がその現物出資を受けた資産等を譲渡するまで課税を繰り延べることができるのです。
この適格現物出資とされるものは、次の3つに分類されます。具体的な要件は、適格合併、適格分割と同じです。(1)100%完全支配関係(親子関係)にある会社間の現物出資
(2)50%超100%未満の支配関係にある会社間の現物出資
(3)共同事業を営むための現物出資
現物出資を行う場合、注意しておかなければならないことが2つあります。
一つは、適格現物出資が行われた場合、被現物出資法人の有する繰越欠損金の利用が制限される場合があるということです。現物出資法人が被現物出資法人の株式等の50%超を保有する特定資本関係が適格現物出資事業年度開始日5年以内に生じている場合、みなし共同事業要件に該当しないときは、被現物出資法人の繰越欠損金のうち「①特定資本関係事業年度前に生じた欠損金額、②特定資本関係事業年度以後の欠損金額のうち特定資本関係成立日において既に保有していた資産の譲渡損失額」は、ないものとされて繰越欠損金として利用できなくなります(例外規定あり)。
もう一つは、適格現物出資が行われた場合、被現物出資法人が現物出資により引き継いだ含み損のある資産の譲渡損失及び被現物出資法人が従来から保有していた含み損ある資産の譲渡損失のうち、一定のものは損金に算入しないということです。特定資本関係が適格現物出資事業年度開始日前5年以内に生じている場合、みなし共同事業要件に該当しないときは、特定資産譲渡等損失額のうち、「①現物出資事業年度開始日から3年以内、又は、②特定資本関係が生じた日以後5年以内」の、いずれか早い日までの期間に生じたものは損金の額に算入できません(例外規定あり)。
平成13年4月の組織再編税制施行により、現物出資に関する税務上の取扱いが上記のように変わりました。従来は、時価譲渡を前提として、一定条件を満たす場合は圧縮記帳という手法により譲渡益の課税繰延べを認めることができる規定でした。しかし、現物出資資産に含み損がある場合には圧縮記帳の規定は働かず、譲渡損が発生しました。圧縮記帳の採用・不採用も任意でした。また、この圧縮記帳が認められるのは、新設子会社に対するものに限られていました。
改正により、適格現物出資の要件を満たす場合には、帳簿価額での引継ぎが強制され、譲渡損益は発生しなくなりました。適格現物出資は既存法人への現物出資も対象となります。
なお、分社型分割を使えば現物出資と同様の効果を得ることができますが、会社分割は営業の全部又は一部を包括的に承継しなければなりません。現物出資は個別の資産を出資することができます。不動産を現物出資した場合、登録免許税は一般の売買と同様に、課税標準である固定資産税評価額の20/1,000(平成18年3月31日までは10/1,000)です。不動産取得税は一定要件をクリアする場合には非課税で、消費税は、原則の5%です。