法律相談
月刊不動産2016年8月号掲載
マンション・敷地売却制度
渡辺晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)
Q
私が住んでいるマンションは、建築から50年近く経過し、劣化が進んでいます。耐震性能も不十分なので、大地震の発生を考えると、とても不安です。ただ、大規模修繕や建替えをしようにも、管理組合に積立金はなく、住民にお金もありません。何か方策は考えられないでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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Answer
マンションの建替え等の円滑化に関する法律(建替え円滑化法)において、多数決によってマンションと敷地を売却することができる制度が設けられています。居住者の大多数が売却を望む場合には、この制度を利用することができます。
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マンションの増加と老朽化への対応
国内の分譲マンションの戸数は、平成26年末時点で、総戸数613万戸、居住者数1510万人に達しました。総人口の約12%がマンションに居住しており、マンションに住むというライフスタイルは、わが国における人々のくらし方として定着しています。
他方で、すでに建築から40年以上経過したマンションが30万戸を超えており、多くのマンションで老朽化が顕著です。昭和50年代までに供給されたマンションには、4階建てや5階建てでエレベーターが設置されていないものも多く、高齢者の住居としては不適当で、陳腐化しているマンションも増加しています。
マンションの劣化・陳腐化への対策としては、修繕・改修と建替えが考えられますが、どちらにも多額の費用を要します。現在、多くのマンションにおいて、費用を捻出することができず、耐震性不足のまま放置される状況が生じており、この状況は改善しなければなりません。
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老朽化に対応したマンション・敷地売却制度
①制度の概要
一般的には、区分所有者の全員合意がなければ、マンションおよび敷地を売却することはできません。区分所有者数が多い場合には、全員合意は実際上不可能です。しかし、耐震性が不足し、これを除去しなければ、居住者や周辺住民の安全な生活が脅かされるようなマンションが存在することは、社会的にみても、あってはならないと思われます。
そこで、平成26年6月に、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(建替え円滑化法)」が改正され、マンションおよびその敷地を売却するための特例が創設されました(マンション・敷地売却制度)。
この制度は、まず、特定行政庁に、マンションを除却する必要がある旨の認定することができる権限を付与しました(同法第102条第1項・第2項)。そのうえで、特定行政庁によって耐震性不足のために除去すべきであると認定されたマンション(要除却認定マンション)については、区分所有者の大多数が賛成すれば、マンションおよびその敷地の売却を行う旨を決議することができるものとされました。決議には、区分所有者の頭数、議決権および敷地利用権の持分の価格の各5分の4以上の多数の賛成が必要です(同法第108条第1項)。
②マンション敷地売却の流れ
決議合意者は、決議合意者等の4分の3以上の同意で、都道府県知事等の認可を受けてマンションおよびその敷地の売却を行う組合を設立します(同法第120条第1項・第2項)。決議に係るマンションを買い受けようとする者は、決議前にマンションに係る買受計画を作成し、都道府県知事等の認定を受けます。決議で定める買受人は、認定を受けた者でなければなりません(同法第108条第3項、第109条第1項)。
都道府県知事等の認可を受ければ、分配金取得計画で定める権利消滅期日に、マンションおよびその敷地利用権は組合に帰属し、マンションとその敷地利用権に係る借家権・担保権も消滅します(同法第149条第1項)。
その後、組合と買受人との間で売買契約を締結し、買受人は組合に売買代金を支払い、買受人が買受計画に従って従前マンションの除却を実施することになります。
買受人は、買い受けた土地上にマンションを再建するものと思われますので、再入居希望者は、買受人との間で個別に再建マンションを購入すれば、再入居を行うことも可能です。再入居を望まない場合には、分配金等を元手として、他の住宅へ住み替えることになります。
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マンションの安全性を確保するために
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Point
- 改正建替え円滑化法により、特定行政庁にマンションを除却する必要がある旨の認定(要除却認定マンションの認定)ができる権限が付与されました。
- 要除却認定マンションと認定されると、区分所有者の頭数、議決権および敷地利用権の持分の価格の各5分の4以上の多数が賛成すれば、マンション・敷地の売却を行う旨を決議できます。
- 決議合意者は、組合を設立して、買受計画を作成し、都道府県知事等の認定を受けます。マンション・敷地の買受人は、認定を受けた者でなければなりません。
- 組合が買受人にマンション・敷地を売却し、買受人は買受計画に従って、マンションの除却を実施します。