法律相談
月刊不動産2019年7月号掲載
マンションにおける高圧受電方式への切替え
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
マンションの集会で高圧受電方式への切替えを決議しました。切替えには全住戸の個別契約の解約が必要ですが、解約を拒む反対者がいるため、電力会社との契約を切り替えられません。反対者に対して損害賠償請求をすることができるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 損害賠償請求はできない
損害賠償請求をすることはできません。集会の決議では、区分所有者の専有部分に関するそれぞれの電力会社との個別契約の解約を義務づけることはできないからです。
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2. 高圧受電方式
さて、マンションのそれぞれの専有部分に関しては、一般に、区分所有者が電力会社との間で低圧電力の供給契約を締結し、電力会社から電力の供給を受けています。
これに対し、マンション全体で一括して管理組合が電力会社との間で高圧電力の供給契約を締結し、一括で受電した高圧電力を低圧電力に降圧する電気設備を利用し、そのうえで専有部分に低圧電力を供給するという方式が採用されることがあります(高圧受電方式)。高圧受電方式を採用すれば、それぞれの専有部分の電気料が割安になり、電気料金を削減できます。資源エネルギー庁の推計では、全国で約60万戸に高圧受電方式によるサービスが導入されているとのことです。
しかし、すでにそれぞれの区分所有者が個別に専有部分の電力の供給契約(個別契約)を締結している場合、高圧受電方式を実施するためには、全戸の個別契約を解約する必要があります。一住戸でも個別契約の解約がなされないと、高圧受電方式に移行することができません。
最判平成31.3.5(最高裁ウェブサイト)では、集会で、高圧受電方式の採用と各区分所有者における個別契約の解約を義務づける決議がなされたにもかかわらず、個別契約の解約を行わない区分所有者に対して、ほかの区分所有者が損害賠償請求をすることができるかどうかが争われました。 -
3. 最判平成31.3.5
(1)事案の概要
①XおよびYらは、いずれも札幌市内の区分所有建物5棟からなる総戸数544戸のマンション(本件マンション)の団地建物所有者である。
②本件マンションの団地管理組合法人(本件団地管理組合法人)では、集会において、専有部分の電気<料金を削減するなどのために、高圧受電方式のへの変更を決議し、また個別契約の解約を義務づける細則(本件細則)を設けた(本件決議)。
③しかし、Yらは個別契約の解約をなさず、そのために、本件マンションにおける高圧受電方式への変更が実施できなかった。
④Xは、Yらが個別契約を解約しなかったことから、自らの住戸における電気料金を削減できなかったとして、Yらに対して損賠賠償を求め、訴えを提起した。
⑤地裁および高裁では、高圧受電方式への変更につき、「上記変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けるなどした本件決議は、(区分所有)法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するから、Yらがその専有部分についての個別契約の解約申入れをしないことは、本件決議に基づく義務に反するものであり、Xらに対する不法行為を構成する」として、Xの訴えを認めた。
⑥これに対して、Yらが上告し、最高裁の判断を求めた。最高裁は、次のように述べて、Yらの主張を認め、地裁および高裁の判断を覆し、Xの損害賠償請求を否定した。
(2)裁判所の判断
「①本件高圧受電方式への変更をすることとした本件決議には、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決する部分があるものの、本件決議のうち、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決するものであって、団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない。したがって、本件決議の上記部分は、(区分所有)法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない。このことは、本件高圧受電方式への変更をするために個別契約の解約が必要であるとしても異なるものではない。
②そして、本件細則が、本件高圧受電方式への変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしても、その部分は、法66条において準用する法30条1項の『団地建物所有者相互間の事項』を定めたものではなく、同項の規約として効力を有するものとはいえない。なぜなら、団地建物所有者等がその専有部分において使用する電力の供給契約を解約するか否かは、それのみでは直ちに他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないし、また、本件高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず、この変更がされないことにより、専有部分の使用に支障が生じ、又は団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれないからである 」。