法律相談

月刊不動産2006年12月号掲載

ペット飼育ルールの説明義務

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

中古マンションの購入検討客が動物嫌いで、マンション内のペット飼育ルールを大変気にかけています。売買の仲介業務にあたり、どのような注意をする必要があるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  仲介業者は、マンションにおけるペット飼育のルールを調査し、購入検討客に説明しなければなりません。説明を怠ったり、誤った説明をした場合には、損害賠償義務を負うことになります。

     当初ペット飼育禁止として販売されていたところ、売れ行き不振のため販売の途中でペット飼育可に方針が変更されたマンションについて、ペット飼育禁止と説明を受けてマンションを買った購入者から、分譲マンション販売会社(分譲会社)に対する損害賠償請求が認められた裁判例があります(大分地裁平成17年 5月30日判決)。

     動物嫌いのAは、平成14年2月、建築途中のマンションを購入し、建物竣工後の同年9月に入居しました。分譲会社は、Aに対し、売買契約前にマンション内でのペット飼育は禁止である旨の説明をしていました。ところが実際には販売時の管理規約案にはペットを禁止する条項はなく、マンションの販売が不振だったため、Aの購入後、分譲会社は、ペット飼育可に方針を変更し、ほかの購入者にはペット飼育ができるマンションとして販売を行っていました。

     裁判所は、「一般にマンション等の集合住宅においては、入居者が同一の建物の中で共用部分を共同利用し、専用部分も相互に隣接する構造で利用するという密着した生活を余儀なくされ、戸建ての相隣関係に比べ、各入居者の生活形態が相互に重大な影響を及ぼす可能性がある。マンション内における動物の飼育は、こうした建物の構造上、ふん尿によるマンションの汚損や臭気、病気の伝染や衛生上の問題、鳴き声による騒音、咬傷事故等、建物の維持管理や他の入居者の生活に影響をもたらすおそれがあるほか、犬や猫などの一般的なペット類であっても、そのしつけの程度が飼育者によって同様ではなく、飼育者のしつけが行き届いていたとしても、動物である以上、行動、生態、習性等が他の入居者に対して不快感を生じさせるなどの影響をもたらすおそれがある。そこで多くのマンションその他の共同住宅においては、入居者による動物の飼育によって、しばしば住民間に深刻なトラブルを招くことから、こうしたトラブルを回避するため、あらかじめ動物の飼育を規約で禁止したり、動物の飼育を認める場合には、飼育方法や飼育が許される動物の定義等について詳細な規定を設け、防音、防臭設備を整えるなどして住宅の構造自体を相当整備するなどし、他の入居者に迷惑が掛からないよう配慮されているところである。そして、マンションにおいてペット類の飼育が禁止されるのか、可能であるのかが、購入者にとって、契約締結の動機を形成するに当たって重要な要素となることもあり得ることである。こうした点に加え、マンション業者と購入者との情報の格差や、マンションの管理規約の作成に当たっては、販売業者がその案
    を準備し、個々の売買契約時に購入者から同意を取得してこれを交付している状況等に照らすと、マンションの販売業者には、購入希望者との売買契約に当たって、少なくとも購入希望者がペット類の飼育禁止、飼育可能のいずれを期待しているのかを把握できるときは、こうした期待に配慮して、将来無用なトラブルを招くことがないよう正確な情報を提供しなくてはならない」と判断し、分譲会社の説明義務違反を認めました。

     ペットは、これを好ましいと感じる人にとっては家族同然の存在である一方、これを不快に感じる人にとっては穏やかな生活を妨げる非衛生的な存在です。マンションではペットについて多様な感じ方をもった人々が共同生活を営みます。そのため現在ではペット飼育に関するルールが定めておくことが一般的です。

     ペットについては好き嫌いのギャップが大きく、いったんトラブルが発生すると、深刻な問題になってしまいます。購入後のトラブルをあらかじめ防止するため、マンションを販売し、あるいはマンション売買の仲介をするにあたっては、それぞれのマンションにおけるペット飼育のルールについて、十分に確認し、あるいは管理組合や管理会社に問い合わせを行ったり、規約や総会の議事録を確認するなどの十分な調査を行った上で、確認、調査の結果を購入検討客に正しく知らせておかなければなりません。

page top
閉じる