法律相談

月刊不動産2008年9月号掲載

ペット禁止の管理規約

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

マンションの管理規約で、居住者に迷惑・危害を及ぼすおそれのある動物を飼育してはならないと定められているにもかかわらず、犬や猫を飼っている居住者がいます。犬や猫の飼育禁止を求めることができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 管理規約に違反して犬や猫を飼っている居住者に対して、飼育の禁止を求めることができます。

     さて、区分所有法では「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる」とされており(区分所有法 30 条1項)、一般に、マンションの管理運営は、管理規約に基づいて行われています。ペットに関する取扱いは、建物の使用に関する区分所有者相互間の事項ですから、管理規約によってルールを定めることができる事項です。

     管理規約に「居住者に迷惑又は危害を及ぼすおそれのある動物を飼育すること(ただし、盲導犬・聴導犬・介護犬及び居室のみで飼育できる小鳥・観賞魚は除く)をしてはならない」旨の規定(ペット飼育禁止規定)があるマンションにおいて、犬や猫を飼っている居住者(ペット飼育居住者)がいたために、管理組合が、ペット飼育居住者に対し、ペットの飼育禁止を求める訴えを提起した事件がありました。ペット飼育居住者の側は、ペットは人間生活に極めて重要な存在であり、危害を与えない動物も一律に禁止するのは人格権を侵害しているとして、ペット飼育禁止規定は違法と主張しましたが、裁判所は、次のように述べて、管理組合の訴えを認め、ペットを飼育してはならないという判決を下しました(東京地裁平成 19 年 1 月 30 日判決)。

     「ペット飼育居住者は、ペット飼育が人間の生活、生存にとって極めて重要な意義のある存在として社会一般に認められている現在において、本件規則が抽象的なおそれの存在だけで一律にペット飼育を禁止するものだとすると、合理性を欠き、居住者の人格権及び所有権を過度に侵害し、違憲・違法である旨主張する。

     しかしながら、区分所有関係は、物理的には一棟の建物を区分した多数の専有部分について所有権が成立することを認めたものであるから、各区分所有者は、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならないこととされ(区分所有法第6条)、建物の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、規約で定めることが認められている(同法第 30 条第1項)。その意味において、マンションの区分所有者であるペット飼育居住者の権利は、団体的な制約を受けるものである。そして、本件マンションにおいては、一律にペットの飼育を禁止することを望む区分所有者が多数である以上、動物禁止条項に違反して犬又は猫の飼育を続けることは共同の利益に反する行為といわざるを得ず、犬又は猫の飼育を禁止されることをもって、人格権又は所有権の過度の侵害ということはできない。

     また、ペット飼育居住者は、管理規約の定めについて、入居時にはそれほど厳格なものとは考えられていなかったから、管理規約の解釈に当たっては、入居者の当初の予測を超えた不利益を及ぼさないよう限定的に解釈するべきであるとも主張する。

     しかしながら、動物の飼育を認めるか否かという問題については、定時総会において繰り返し審議が行われ、いずれの総会においても消極意見が多数を占めたことが認められるのであり、また、管理組合が、ペット飼育居住者に対し、排除猶予期間を与え、既存の動物の飼主の利益に対して配慮していたことに照らすと、管理規約を限定的に解する理由はないというべきである」

     ペットは生活に潤いを与えるという利点があり、好ましく感じる人々にとっては家族同然です。他方、好ましく感じない人々にとっては、音、臭においなど、平穏で安全な生活を妨害する迷惑な存在にすぎません。またペットには衛生上の問題点もあります。ペットを好ましく感じるかどうかは、個人の感性に根ざすものであって本来的には相容 いれない対立です。しかし、ひとつの建物の中で共同生活を営む以上は、ルールを作って共同生活の拠より所とする必要があります。ペットを禁止する管理規約に効力があることは確定した判例法理であり、マンションに居住する以上は、定められたルールに従わなければなりません。

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