法律相談
月刊不動産2012年12月号掲載
インターネットによる広告
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
インターネットを利用して広告をする場合には、チラシや雑誌の広告と比べて、規制が緩やかだと聞きましたが、本当でしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.回答
誤っています。インターネットを利用する場合にも、チラシや雑誌の広告と同様、定められたルールを守らなければならないのであり、規制が緩いということはありません。
2.宅建業法によるルール
まず、宅建業法には、①誇大広告の禁止、②広告開始時期の制限、③取引態様の明示の3 つが定められています。これらは、インターネット広告を含め、宅建業者が行う広告すべてについての共通の規制です。
①誇大広告の禁止
宅建業者が広告をするときは、宅地・建物の所在、規模、形質、現在もしくは将来の利用の制限、環境・交通その他の利便、代金・借賃等の対価の額もしくはその支払方法、代金もしくは交換差金に関する金銭の貸借のあっせんについて、著しく事実に相違する表示をしてはなりません(宅建業法32 条)。売る意思のない物件や売ることのできない物件について広告を行うおとり広告も、事実に反する広告を行うという意味において、誇大広告禁止の宅建業法に違反します。
②広告開始時期の制限
宅地の造成または建物の建築に関する工事の完了前においては、工事に関し必要とされる開発許可や建築確認があった後でなければ、工事に係る宅地・建物の売買その他の業務に関する広告は禁止されます(同法33 条)。
③取引態様の明示
宅建業者が宅地・建物の売買・交換・貸借に関する広告を行うには、自己が契約の当事者となって売買・交換を成立させるか、代理人として売買・交換・貸借を成立させるか、または媒介して売買、交換・貸借を成立させるかの別(取引態様の別)を明示しなければならないものとされています(同法34 条1 項)。
3.表示規約によるルール
次に不動産広告では、宅建業法だけではなく、不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)にも従わなければなりません。
表示規約は、不動産業界が自主的に定め、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)の規定に基づき公正取引委員会の認定を受けたルールです。
宅建業法が、基本的な禁止事項だけを定めているのに対し、表示規約は、広告のあり方として、事実に反してはならないだけではなく、消費者が不動産を選ぶ場合に必要と考えられる事項を表示するべきであるという考え方に基づき、物件の種類と媒体別に必ず表示すべき事項を定めるなど、きめ細かいルールを決めています。
インターネット広告であっても、宅建業法と表示規約との両方を遵守しなければならないのは当然であり、表示規約の対象としてみた場合にも、必要な表示事項を記載しなければなりません。
4.おとり広告
売る意思のない物件や売ることのできない物件について広告を行うことを、おとり広告といいます。おとり広告は、広告をみて集まる客に対し、その物件は既に売れてしまったなどと称して、ほかの物件を紹介して押しつけることになるので、宅建業法と表示規約のいずれにおいても、禁止されています(宅建業法32 条、表示規約21 条)。
ところで、最近、インターネット広告について、契約が成立して決済に至り、広告表示から削除しなければならない物件を、そのまま残しているということが少なくないようです。
しかし、このような状況は、おとり広告規制違反です。故意におとり広告を利用することはもちろん、物件の成約状況の広告表示における管理・確認が不適切であることも重大なルール違反となってしまいます。
インターネット広告には本来的に更新しやすいという特性もあります。そのため一般消費者からみると、常に新しい物件の広告が掲載され、かつ、広告された物件は実際に取引することができるものと認識されます。ところが一部の宅建業者においては、管理能力を超えた多数の物件広告を掲載するなどの理由により、契約が成立して決済に至り、広告表示から削除しなければならない物件が、そのまま残っているということもあるようです。
この問題は、宅建業者が社会的信頼を確保するという観点から、重大な問題です。仮に不適切な管理のために広告表示から削除しそこなっていただけであっても、顧客に対して不当な広告であるとの印象を与えてしまいます。インターネット広告についても、不動産広告のルールに十分な注意を払って、業務を行わなければなりません。