税務相談
月刊不動産2003年10月号掲載
アパートによる相続対策の有効性
代表社員 税理士 玉越 賢治(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
今でも借入金によるアパート建築は有効な相続対策になるのでしょうか?
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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バブル期にたくさんの遊休地でアパートを建築する相続対策が行われてきました。もちろんほぼ全額が借入金です。現在でも、こうした対策は果たして有効なのでしょうか。
アパート建築に相続税節税効果があることに現在も変わりはありません。しかし、地価の値下がりに歯止めがかからず、したがって、賃料の値上げも見込めない現状では、アパートの建築を事業として見ていく必要があります。
アパート建築による相続対策は、確かに一定の効果があります。まず土地については、貸家建付地として18%の評価減(借地権割合60%、借家権割合30%の地域とします)を受けることができます。(表)
一方建物については、建物の固定資産税評価額が建築資金の60~70%程度(建築内容によります)と低い上に、借家権割合30%が控除されるため、計算上、建築資金の51~58%近い評価減を得ることができます。この建物評価減は、建築資金を自己資金によっても借入金によってもどちらでも同様の効果を得ることができますが、通常は自己資金がないため借入金で建築するわけです。
こうした事実は、バブル期も今も変わりません。しかし、当時と現在の状況で大きく異なるのが、物価状況です。当時の事業シミュレーションはすべて年数パーセントのインフレを前提としており、したがって借入金の返済は容易なものでした。事実戦後日本は一貫してインフレ基調にあり、それが借入金の返済を容易にしてきました。
ところが、資産デフレ時代といわれる現在において、借入金の負担感は年々増しています。実際、アパート事業のシミュレーションをインフレ率0で計算すると、その収支は厳しいものとなります。例えば30年の元利均等返済を前提にすると、利息の節税効果が薄れるとともに大規模修繕費がかかるようになり、15年目~30年目の収支が悪化する傾向にあります。
これからは、アパート建築による相続税節税効果は付随的なものと考え、事業収支がきちんと組めることを大前提とすべきです。更に、アパート建築で土地の評価は下がるものの、処分価値も同様に下がるため、有効活用する土地は当分処分できないということをきちんと見極めた上で実行する必要があります。
つまり、遊休地におけるアパート建築の良否は、一律に判断できるものではなく、事業計画や全体の資産構成を基に判断するべきことであると言えます。アパート建築を計画している土地が後々残す土地として承継されることを前提としており、事業採算が取れるのであれば、相続税の節税効果も得られるアパート建築は今でも有効な相続税の生前対策となり得るのです。
なお、賃貸用不動産の敷地は、相続税評価を行う上で、「小規模宅地等の評価減特例」の適用を受けることができます。適用を受ける場合、上記で説明した貸家建付地としての評価から、その敷地のうち200㎡までの部分について50%の評価減を受けることになります。