法律相談

月刊不動産2010年12月号掲載

おとり広告

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

A社がインターネットで購入者募集の広告をしている中古の一戸建て住宅は、すでに2か月前に契約済みで、取引できない物件でした。このような広告に問題はないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1 A社の広告はおとり広告ですから、宅建業法32条及び不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)21条に違反します。

    2 不動産広告のルール

     売る意思のない物件や売ることのできない物件について広告を行うことを、おとり広告といいます。おとり広告は、広告を見て集まる客に対し、その物件はすでに売れてしまった等と称して、他の物件を紹介して押しつけることになるので、宅建業法と表示規約において禁止されています。

    (1)宅建業法32条

     宅建業者が広告をするときは、①著しく事実に相違する表示、及び、②実際のものよりも著しく優良若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはなりません。

     これらの規制を、誇大広告等の禁止といいます(宅建業法32条)。おとり広告は、広告で売買すると表示した物件と、現実に売買しようとする物件とが異なりますので、著しく事実に相違するものであり、誇大広告の一つです。物件がすでに契約済みで、取引できなくなっているにもかかわらず、そのままインターネットに広告表示を続けることは、売ることのできない物件について広告をすることになり、おとり広告として禁じられます。

     おとり広告をした宅建業者は、指示(同法65条1項、3項)、業務停止(同法65条2項、4項)、情状が特に重いときは免許取消し(同法66条1項9号)という処分を受けることがあります。さらに、6か月以下の懲役、又は100万円以下の罰金の定めもあります(同法81条1号)。

    (2)表示規約21条

     表示規約は、不動産業界が自主的に定め、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)の規定に基づき公正取引委員会の認定を受けたルールです。表示規約では、

     ①物件が存在しないため、実際には取引することができない物件に関する表示

     ②物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示

     ③物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件に関する表示

    について、いずれも広告表示が禁止されています(表示規約21条)。おとり広告は、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示に該当し、規約違反です。

     表示規約違反に対しては、違約金課徴(表示規約27条)等の措置を受ける場合があります。

    3 インターネット広告の特性

     宅建業者にとって、多数の顧客が情報に対し容易にアクセスし得る環境を作り出すことができることから、インターネットは重要な広告媒体になっています。

     ところが他方で、インターネット広告には本来的に更新しやすいという特性もあります。そのため一般消費者からみると、常に新しい物件の広告が掲載され、かつ、広告された物件は実際に取引することができるものと認識されます。しかるに一部の宅建業者においては、管理能力を超えた多数の物件広告を掲載する等の理由により、契約が成立して決済に至り、広告表示から削除しなければならない物件を、そのまま残しているということもあるようです。

     しかしこのような状況は、おとり広告規制に違反しているといわざるを得ません。故意におとり広告を利用することはもちろん、物件の成約状況の広告表示における管理・確認が不適切であることも、重大なルール違反です。

     実際に、これまで、適切な更新を怠ったために、掲載途中から取引不可能になった例、当初から成約済みであった物件をインターネット上に掲載していた例、架空物件をインターネット上に掲載していた例について、不動産広告のルールに違反するものとして、措置がなされています。

    4 まとめ

     集客は宅建業の要であり、多くの顧客を惹(ひ)きつけることは、事業の根幹です。しかし、ルールの無視は、結局宅建業者の信頼を失います。インターネットは重要な広告媒体ですが、インターネット広告においても、宅建業者は、不動産広告のルールに十分な注意を払って、業務を行わなければなりません。おとり広告をしないためには、情報登録日、直前の更新日、次回の更新予定日などを明確に表示するとともに、リアルタイムに、成約状況を確認し、適切に対処することを心がける必要があります。

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